ハンギングツリー

 本物の死体を使ったハングドマンを吊すハンギングツリーが回る中、零慈は女にコーヒーを差し出した。

 簡易イスに座り向かい合ってお互いにコーヒーを啜りながら、彼女はこの男なら本当の自分を受け入れてくれるような妙な安心感を抱き始める。

「あたしは昔から要領の悪い人間で何かズルをすれば必ず見つかってた」

 女は零慈に自分の人生をぽつりぽつりと話し出す。

「なんか全てにおいてダメで友達も彼氏も人間関係も全てに上手くいかなくて……」

 こんな話つまらないよね、と言って女が零慈の顔を見れば、愛しみを込めた瞳で此方を見つめていた。

「大丈夫、続けて」

 まるで自分だけのカウンセラーのように静かに優しく話を促される。

 こんなに自分を認めて受け入れてくれる人がいただろうか。

 女はコーヒーを一口啜ってから

「なんか不思議だね。あなたと話していると安心するよ」

 今夜初めて会った男に信頼感を寄せていた。

「なんかもう、疲れちゃってさ……眠りたい。あなたなら、叶えてくれるんでしょ?」

 最初に会って彼の瞳を見た瞬間から女は悟っていたのだ。

 この男なら安心して任せられる、自分の死を託そう……と。

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