三毛猫
「さあ着きました。こちらへどうぞ」
「ひゃあーすごいお座敷だ」
案内された先は立派なお座敷だった。
花魁が先頭を行き、中へと招き入れてくれる。
そうして16畳はあるだろうかという、広い畳敷きの部屋へと辿り着く。
「さあ、朝まで宴会を始めましょう」
花魁が鈴を鳴らすと、奥から豪勢な山の幸海の幸をお盆に乗せた禿たちがわらわらと出てきた。そうして世之介の前に次から次へと並べていく。
「世之介様、お酌をしましょう」
禿の一人が世之介にお酒をつぐ。
「ああ、ありがとう。おっとと」
なみなみとお酒をお猪口に注がれて慌てて口をつける。
「さあさ、世之介様。余興をご覧にいれましょう」
花魁がまた鈴を鳴らせば、芸妓たちが集まってきて踊りを披露してくれる。扇子を使った優雅な踊りは、世之介の瞳を輝かせた。
「うーん、飯はうまいし、酒はうまいし、踊りも見られて最高な宴会だなぁ」
「さあ、もっと召し上がれ」
禿がまた酒をついでくれる。
「世之介様、今宵の宴会を最後までお楽しみ下さいね」
花魁が微笑む。その頭には大きな三角お耳が二つあるように見え、尻尾がゆらゆらしているように見えた。
あれ僕、酔っ払い過ぎたかな……?
不思議に思いつつも、世之介はこの宴会を心から楽しんだのだった。
────
────────
「ぶえっくしゅん!」
大きなくしゃみをして、世之介は目を覚ました。
「あ、あれ? いつの間に家に帰って来たんだ?」
外はすでに陽が落ちて暗くなり始め、夜の冷たさが訪れていた。
そうしてふと、お腹に重みを感じて「ああ、にゃんさんと昼寝をしてたんだった」と思い出す。
「にゃんさん」
優しく声をかけてやりながら、その柔らかな毛並みを撫でた。
「にゃんさん……?」
いつも温かな三毛猫の身体はひどく冷たかった。
「にゃんさん、身体が冷えてしまったのかい?」
いや、それにしては冷たすぎる。
「にゃんさん、お前……」
三毛猫は息絶えていた。
「そうか……もう、年だったもんなぁ」
起き上がり、胡座をかいた自分の膝に乗せて、三毛猫を撫でる世之介に、ふっと耳元で囁く声がひとつ。
『世之介様、いままでありがとうございました』
その声は夢で見た花魁の声であった。
「そうか、にゃんさんが花魁だったのか。最後に僕に面白い夢を見させてくれたんだね、ありがとう」
そうして世之介は坊主を読んでお経を唱えてもらい、三毛猫を庭に埋めた。
そこには花の種を蒔き、世之介は毎日世話をしている。
「にゃんさん、今日もいい天気だね」
その花は不思議なもので、三年もの間変わらずに咲き誇り続けたのだった。
完
「ひゃあーすごいお座敷だ」
案内された先は立派なお座敷だった。
花魁が先頭を行き、中へと招き入れてくれる。
そうして16畳はあるだろうかという、広い畳敷きの部屋へと辿り着く。
「さあ、朝まで宴会を始めましょう」
花魁が鈴を鳴らすと、奥から豪勢な山の幸海の幸をお盆に乗せた禿たちがわらわらと出てきた。そうして世之介の前に次から次へと並べていく。
「世之介様、お酌をしましょう」
禿の一人が世之介にお酒をつぐ。
「ああ、ありがとう。おっとと」
なみなみとお酒をお猪口に注がれて慌てて口をつける。
「さあさ、世之介様。余興をご覧にいれましょう」
花魁がまた鈴を鳴らせば、芸妓たちが集まってきて踊りを披露してくれる。扇子を使った優雅な踊りは、世之介の瞳を輝かせた。
「うーん、飯はうまいし、酒はうまいし、踊りも見られて最高な宴会だなぁ」
「さあ、もっと召し上がれ」
禿がまた酒をついでくれる。
「世之介様、今宵の宴会を最後までお楽しみ下さいね」
花魁が微笑む。その頭には大きな三角お耳が二つあるように見え、尻尾がゆらゆらしているように見えた。
あれ僕、酔っ払い過ぎたかな……?
不思議に思いつつも、世之介はこの宴会を心から楽しんだのだった。
────
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「ぶえっくしゅん!」
大きなくしゃみをして、世之介は目を覚ました。
「あ、あれ? いつの間に家に帰って来たんだ?」
外はすでに陽が落ちて暗くなり始め、夜の冷たさが訪れていた。
そうしてふと、お腹に重みを感じて「ああ、にゃんさんと昼寝をしてたんだった」と思い出す。
「にゃんさん」
優しく声をかけてやりながら、その柔らかな毛並みを撫でた。
「にゃんさん……?」
いつも温かな三毛猫の身体はひどく冷たかった。
「にゃんさん、身体が冷えてしまったのかい?」
いや、それにしては冷たすぎる。
「にゃんさん、お前……」
三毛猫は息絶えていた。
「そうか……もう、年だったもんなぁ」
起き上がり、胡座をかいた自分の膝に乗せて、三毛猫を撫でる世之介に、ふっと耳元で囁く声がひとつ。
『世之介様、いままでありがとうございました』
その声は夢で見た花魁の声であった。
「そうか、にゃんさんが花魁だったのか。最後に僕に面白い夢を見させてくれたんだね、ありがとう」
そうして世之介は坊主を読んでお経を唱えてもらい、三毛猫を庭に埋めた。
そこには花の種を蒔き、世之介は毎日世話をしている。
「にゃんさん、今日もいい天気だね」
その花は不思議なもので、三年もの間変わらずに咲き誇り続けたのだった。
完
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