婦女子連続殺傷事件

「はい、あーん」

「あーんっ」

 シャクシャクと林檎を噛み砕く音が、屋敷に響く。

 あの後、世之介は倒れてしまい清一郎は一人で大変であったが、なんとか警察に葉月を引き渡し、世之介は病院で治療を受けたのだった。

「嗚呼、女の子が食べさせてくれる林檎は、なんてうまいんだろう」

「はい、もうひとくちっ」

 現在、世之介の屋敷には清一郎と結羅が見舞いに来ていて、結羅は持参したフルーツバスケットの中から林檎を剥いて世之介に食べさせていた。布団の上で起き上がった世之介の膝の上に乗り上げて。

「でも本当にありがとぉ。事件を解決してくれてっ。まさか、葉月ちゃんが殺傷魔だなんてびっくりだけどぉ」

 結羅は人差し指を頬に当てて、可愛らしく小首を傾げる。 

「人はそれぞれ腹になにかを抱えているものだからな。大人しい人間ほど、我慢しやすく、抱えているモノが爆発した時は止められないのだろうな」

 清一郎が葉月を頭に思い浮かべながら話す。

「葉月ちゃん……いま、どうしてるんだろうね」

「警察で大人しく事情聴取に協力しているらしいぞ」

「そっかぁ」

 腹を刺された身なのに、世之介は自分の事のようにしょぼんとする。

「女の子はみんな、笑顔で過ごして欲しいよ僕は」

「世之介……」

「世之介さんって優しいのねっ! 結羅、惚れちゃいそう!」

「え、本当~?」

 デレデレと顔を赤らめて照れる世之介。

 その時、庭先に現れたお涼。

「世之介さん、お加減はいかが……まっ、世之介さん貴方って人は……!」

 お涼は世之介の膝に跨がって林檎を食べさせている結羅を見て、腹を立てた。

「せっかく人が心配してお見舞いに来てあげたのに、貴方って人は……っ! もう知らないっ!」 

「うわ、ちょっとお涼!」

 見舞いの品を世之介に投げつけて、お涼はぷりぷりと怒って行ってしまった。

「ハハハハッ、お涼さんにまずい所を見られてしまったな」

 豪快に笑う清一郎。世之介はお涼に文句を言う。

「お涼の奴、可愛くないなぁ」

「ほらほら世之介さん? 機嫌直して? 次はなにを食べる? 葡萄? 桃? それとも、あたし……?」

「ええ~へへへっ、結羅ちゃんは可愛いなぁ~ご贔屓にさせてもらいますっ!」

 腹は痛みを訴えてはいたが、世之介は女の子に優しくされて幸せでいっぱいだった。


 こうして三十人もの被害者を出した殺傷事件は、幕を閉じた。

 世之介と清一郎はこれからも、面白い事を求めて危険な事柄に首を突っ込んでいくのだろう。

 さあ次なる大正浪漫劇はなにが起こるのだろうか……




 完


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