毒を食らわば皿まで

「こんな事って……」

 あの崖から落ちて無事な筈がない……。

 豪華な調度品に囲まれて優雅に本を読んでいた優奈は固まった。
 自分が殺した筈の夫が帰って来た事に。

「動揺するのも無理ないよな。あ~痛てて、傷深いな……」

 頭からだらだらと血を流しながら、一樹は柔和な表情で話した。

 一樹の家系は先祖代々からつづく、有名な資産家である。その為に昔から命を狙われる事が多く、どうにかしたいと七代前の先祖が仏像に一心に祈ったらしい。

 結果、寿命がくるまで殺されても事故にあっても、死なない体になった、と一樹は説明した。

「そういう家系なんだ。寿命がくるまで死なない。ちなみに我が家は平均寿命108歳だよ」

 さも当たり前の事のように話を終えた一樹。

 優奈はあり得ない話を聞かされ、頭は理解を拒否していたが、

 夫を殺害しようとした事は、すぐ警察に知らされる……。

 ただその事実だけは混乱する頭でも解った。

 そうして彼の話を聞き終えた優奈の脳が出した判断は……

 終わった。

 その一言だった。





「大丈夫だよ、優奈」

 声と共に自分の肩に軽く触れる一樹に、体が一瞬跳ねる。

「俺は君の事、今まで通り、変わらず愛し続ける。心配しないで、今回の事は警察に話さないから」

 彼の放った言葉に次は、違う意味で優奈は固まった。

 その後優奈をどれだけ愛しているか延々と話す夫を見つめながら、彼女は2度目の終わりを実感した。

 そういえば……と、優奈はふと思い出す。

 彼からのプロポーズは変わっていて、

『君に殺されようと生きて君をずっと愛し続けるよ』

 そう言って黄色と赤の薔薇の花束を101本渡されたんだと。

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