毒を食らわば皿まで

「491万6000円になります」

 店員の言葉に財布からカードを出した女は、顔を曇らせた。

 忌々しい……。

「お客様?」

 店員の声に我に返った女は「すみません」そう一言謝り、カードで払いを済ます。

 お金と引き換えに受け取った紙袋には、女が好きなブランドのロゴマークが入っている。

 やっと死んだと思ったのに……。

 コツコツと高い音を響かせて歩くその脚には、ハイヒール。牛革で作られた黒一色の艶やかなエナメルは、装飾のない洗練されたデザインで、そのシンプルさが逆に高級感を漂わせていた。

 女の姿を見て目を奪われない者はいない。

 女のファッションは頭からつま先まで、高級ブランドで包まれていたのだから。

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 ブティックを出て街を颯爽と歩きつつ

 次はどう殺してやろうか……。

 女は思案を巡らせる。

 今まで数多の男を騙し金を奪った女は、初めての難局に頭を悩ませた。

 女の名前は藤堂優奈。
 職業は詐欺師である。

 今ターゲットにしているのは財閥の御曹司、唐沢一樹。


 ────『ごめんな、優奈。俺の家系、昔からこうなんだ』

 最初に殺した時に言われた事を優奈は思い返した。

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