つかまらない彼女

「ねえ、行方ちゃん。僕、結婚しようと思うんだ」

 ベッドの中、けだるい身体を寄せ合い話す僕に、愛しい彼女は顔を綻ばせた。

「おめでとうございます!光流さん!」

 ぱあーっと効果音が鳴りそうな顔に、続けて話そうとする僕は、先に言葉を紡いだ行方ちゃんにびっくりした。

「わあーそうなんですねー。じゃあお別れしましょう!」

 ちょ、ちょ、ちょっと待って!なんでそうなるのっ!

 慌てた僕は、「じゃ、お休みなさい」と、背中を向けて寝ようとする彼女を振り向かせた。

「あのね、なんでそうなるのっ?別れないよっ!違うでしょ、僕と君が結婚するんだってば!」

 僕の言葉にポカーンとした顔の彼女は、不思議そうに話す。

「え?私とですか?……日本三大名家の生まれで、れっきとしたお家柄と血筋の貴方が、私と結婚ですか?」

 意味が分からないと、?マークを頭に浮かべて話した彼女に、僕は柔らかな行方ちゃんの身体を撫でながら話す。

「そうだよ、君と僕が結婚するの。だからさ、僕の子供、産んで欲しいな」

 女性なら誰もがメロメロになるはずの僕のキメ顔。

 これで堕ちない女性はいなかったんだけど、行方ちゃんは……。

「ごめんなさい。私、子供産めない」

「え、それはその……」

「あ、ごめんなさい。言い間違えました。私は子供産みたくない人なんで、他の女性、当たって下さい。結婚もその方とどうぞお幸せに!」

 ニコーッと笑顔で話した彼女に、僕は呆気に取られていると、

「じゃ、お休みなさい光流さん」

 すぐに背中を向けて寝ようとする。

「いや、まてまてまて。行方ちゃん、駄目。寝ないでよっ」

 なんですか、もう。なんて抗議する彼女に、僕は告白する。

「あのね、あのね。僕は行方ちゃんにメロメロなの。ね?だからさ、他に付き合っていた女性たち、みんな別れたよ?君だけとちゃんと愛し合いたかったから」

 僕は焦る。行方ちゃんは変わった子なんだけど、僕はパートナーのひとりにしていた彼女にぞっこんになり、他の10人の女性たちとはお別れしてたんだ。行方ちゃんと結婚したくて。

「えー……マジですかぁー」

 行方ちゃんはみるみる内に、困った顔になる。え、なんで?

「あのー……やっぱり尚更お別れしましょう、光流さん」

「なんでなんで?僕のこときらい?ちゃんとこれからは僕、君だけを愛するよ?」

「はあー……」

 ため息を深々とついた彼女に、今度は僕が頭に?マークを浮かべた。

「……私はポリアモリーって、最初に言いましたよね?」

「ぽり、ぽりあ?」

「ポリアモリー」

 耳慣れない単語に僕は頭を傾げた。
なんだそれ、聞いたことないんだけど。

「ポリアモリー、要は複数の方達を愛してお付き合いする、人のことです」

 ……。

「えーっとつまり……?」

「最初に言いましたよね、私。『ポリアモリーなんですが、大丈夫ですか?私は複数の方達を愛してお付き合いする人間です』って。そしたら光流さん、『アハハいいよー。僕も複数の女性と付き合ってるしー』って、了承したじゃないですか」

 ああ、あったなそんなこと……え、いやでもさぁ……ええー……

「つまり行方ちゃんは、ポリアモリーで複数恋愛が好きだから、僕とは結婚出来ない……と?」

「はい、そうです。ですからお別れしましょう!」

 なにその笑顔!いやちょっとは悲しそうにしてよっ。僕、泣いちゃう……っ!!

「待って待って!僕ね、君に本気になっちゃったの!ね?だからさ、絶対に君と結婚したいんだ。なんとかならない?その、ポリアモリーってやつ」

「はあぁ……なんとか、ですかぁー。うーん……それならこうしませんか?」



────

────────



「じゃ、光流さん!行って来まーす!」

「いってらっしゃい……行方ちゃん……」

 僕は行方ちゃんと結婚した。

 僕は行方ちゃん以外の女性に子供を産んでもらった。

 つまり、行方ちゃんとは結婚をしてるけど、子供は違う女性に産んでもらうことを勧められたのだ。行方ちゃんに。

 その子を行方ちゃんとの子供として育ててる。

 そして3日前、行方ちゃんは違う人の元へと笑顔で出掛けて行った。

『いいんですよ、光流さん?光流さんもポリアモリーですから、いままでみたいに複数恋愛して下さいっ!』

 行方ちゃん、僕、僕、君一筋になったんだけど……。

 でも哀しいかな、男の性として何日も行方ちゃんが他の人の元へと連泊されると、えっちしたくなっちゃう。
 
 僕はおもむろに、スマホの画面をタップして電話を掛けた。

「あ、里奈ちゃん。僕、僕!今日、ひましてる?」

 でもね、行方ちゃん。僕はやっぱり行方ちゃんを1番愛してるからねっ!……ぐすっ。




 完
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