5月のホームパーティー

「燦チャン♬ただいま~♡」

 玄関を開けた途端、ぎゅううっと遥に抱き締められる燦。

「は、は、遥くん!皆さんびっくりしてるよっ!離れて離れて!」

 慌てる燦の頬にチュッとキスをする遥はいつも通りのマイペースさで、新入社員たちはびっくりしていた。

「あの、改めまして。いつも主人がお世話になっております。彼方遥の妻の彼方燦です。今日はようこそいらっしゃいました、どうぞこちらへ」

 遥の抱擁から逃げられないままで諦めた燦は、そのまま社員たちを部屋に案内する。

「うわあ、美味しそう」

「これ、社長の奥様が全て作られたんですか?」

「え、食べていいですか?」

 社員たちはみんな目を輝かせて、燦が配るお皿に食べたい物をよそい、嬉しそうに食べ出した。

「こんにちは、奥様。今日も素敵なお召し物ですね」

「あ、こまこまちゃん!」

 黒ぶち眼鏡を掛けたミニの黒タイトスカートがよく似合う、遥の秘書の苫小牧こと通称こまこまちゃん。

「あの、先日は妙な誤解を招く真似をしてしまったせいで、奥様に大変お辛い思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」

 美しい90度の角度でキチッとお辞儀をするこまこまちゃんに、燦は慌てた。

「あ、あはは。いいの、いいの。あれはね、私の勘違いだったし、こまこまちゃんのせいじゃないから、ね?あー恥ずかしい……」

 先日のこととは、遥がこまこまちゃんと2人でホテルに行ったことだった。

 結局は浮気じゃなくて、会社の企画の一環で行った配信企画、若者のための性教育の動画撮影だったんだけど。

 こまこまちゃんはひどく気にしているみたいで、重ね重ねの謝罪をするから、困ってしまった燦。

「本当、気にしないで。ね?私ちゃんとわかってるしさ」

「でも、普通は誤解することですから……」

「もう、こまこまちゃんは真面目だなあ!大丈夫、大丈夫。ほら、食べて食べて?リンゴのタルトは私的におすすめだよ?」

「はい、ありがとうございます。いただきますね」

 こまこまちゃんは恐縮しながら、「あ、美味しい」とリンゴのタルトを食べてくれた。

 ふと遥はどうしているのかと、キョロキョロと探すと、新入社員のひとりの男性と話してるみたいだった。

「そう、いまは高齢化社会だからね。やっぱりお年寄りが求める需要に応えることも大切なんだよね」

 遥は普段ふざけた言葉遣いや砕けた態度をしているが、社員たちと話す時は真面目な雰囲気で、

 ああ、遥くんはちゃんとした社長さんなんだなあ。

 そう燦は思いながら微笑ましく見ていた。

 すると燦の視線に気付いた遥が、こちらに新入社員と一緒に来た。

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