愛し愛され愛しき日々よ

 話をしてみると彼、彼方遥かなたはるかは、チャラい態度と口調とは裏腹に、ちゃんとした人だった。

 職業は製薬会社の社長。そこで実験やテストを繰り返し、新薬の開発に力を注いでいるらしい。

「ここ3日間、会社に缶ズメだったし甘いモノが切れて死にそうだったヨ」

 ぐったりして彼が言う。

「それでタピオカドリンクを、4つも頼んだんですか?」

 私が尋ねると、

「ウン、頑張った自分へのご褒美にネ」

 彼はそう答えたので、親近感を覚えた。

「あ、私も同じです。仕事終わりにこのカフェで、甘い物を食べて帰るのが日課なんです」

 タピオカドリンクに刺さったストローをくわえて飲む彼に言う。もう4つ目のタピオカドリンクを飲み終わりそうだ。

「甘いモノってイイよネ♪癒やされるしサ」

「はい。食べると明日も仕事頑張ろうって気になります」

 にっこりと笑う彼に、私も笑いかける。

 そして、

「今度また一緒にお茶しに行こうヨ。ボク結構、色々なお店知ってるからサ」

 と、言って彼は誘ってきた。

 迷う私に「都合のいい時に連絡して」と名刺をくれる。

 ゴチソウサマ♪と、全て食べ終えた彼が席を立ち去り際に言った。

「ボクにもう逢いたくナイなら連絡しなければイイケド……ボクはキミにまた逢いたいナ……」

 だから連絡待ってるヨ……。

 そう言った彼の優しい顔が心に残った。

 強引に相席を誘ってきたものだから、カフェを出た後も他に誘われるかと思ってたのに……

 そう、例えばホテルとか。



 カフェを出て行く彼の後ろ姿を見つめながら、一人残された私は淋しさを感じていた。

だからもしかすると、彼にホテルに誘われていたとしたら……そのまま彼と愛し合っていたかもしれない。



 だって彼の顔を見た瞬間、私は一目惚れしていたのだから。

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