お別れに悲しめど愛は続く

 静かな部屋の中で、チクタクチクタクと時計の針だけが、やけに大きな音として響く。

 遥くんとの夫婦の寝室で、ポツンとひとりベッドに腰掛けて、3日前に彼が脱いだパジャマを抱き締める。

「遥くん……」

 パジャマの匂いをくんくんすれば、遥くんの香りがする……私をいつも包んでくれる愛する人の香り。

「遥くん、なんで……」

 涙がぽろぽろと零れ落ちていく、その雫が彼のパジャマに吸い込まれて濡らしていく。

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 今日の昼の出来事だった。

『燦ちゃん、ゴメンネ。今日も帰れそうにナイんダ』

「あ、そうなんだね。わかった。お疲れ様、遥くん」

『ン、ありがと燦チャン♬愛してるヨ♬』

 遥くんから家に帰れないという連絡がきて、最後に電話越し、チュッとリップ音が響いた。

「淋しいけど、遥くんもおんなじ気持ちなんだよね。遥くん、お疲れ様です」

 独り言を呟きながら、彼のために差し入れをしようと考えた私は、遥くんの大好きな甘いお菓子を作ることにした。

「この間はシフォンケーキを焼いたから、今日はフルーツタルトでも作ろうかな」

 だから私は、材料を買いに行ったのだ。

 行かなければ、見なかったのに……行かなければ、知らなかったのに……。

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「はるか、くん……?」

 大好きな遥くん、私の旦那さま。

 彼が街中を歩いていた……きっと、休憩中で外食するつもりなのだろう。そう思っていた。

「え、こまこまちゃん?」

「こまこまちゃん♬」そう声かけをして遥くんは秘書のこまこまちゃんに手を振る。

 遥くん、こまこまちゃん……?


 ふたりが向かった先は、ラブホテルだった。

 ふたりきり、こまこまちゃんは恥ずかしそうに、遥くんはクスクス笑いながら、仲良く消えて行った。

「遥くん、や、まって……やだ」

 そうして止めたかった私の体は、全く動かず、強張ってしまって。

 そのままふたりを見送ってしまったのだった……。

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