異世界トリップ遥編

 それは突然に起こったコトだった。

「燦チャン、オハヨー♪」

 朝、ボクが愛する妻におはようのキスをしようとすると、

「え、あ、は、遥くん!? こら、やめてってば!」

 バシバシと叩いてキスを阻止してきた。

「もうやだなぁ~、恥ずかしがって。ホント、カワイイ♪」

 そうしてもう一度キスをしようとした所で、妻が衝撃の言葉を告げる。

「遥くん。私、もう2児の母なんだよ? それに私の愛する人は葵くんだけなの。遥くんの気持ちには応えられないから」

「なにを言ってるの、燦?」

 ボクの心臓がバクバクと鳴る。

 アレ? ココは、あの燦がいる世界じゃないよネ? ボクが燦を閉じ込めて愛し苦しめた世界じゃないよネ?

 いや待って、2児の母って……え?

「燦、キミはいま何をしているの?」

「え? 私は葵くんと結婚して、光と太陽を産んでいまは専業主婦をしてるよ? 遥くん、大丈夫? それよりなんで私、遥くんのマンションにいるの?」

 部屋を見渡せば、いつもの燦と過ごす愛の巣。だからつまり違うのは……。

「燦、キミってもしかして……違う世界の燦なの?」

「え?」

 そう、ボクの愛しい燦は、違う世界の燦に入れ替わってしまったのだった。

「ええー!!」

 燦に落ち着くように言ってカラ、ボクの推測を語った。燦は眠っている間に、違う世界のいわゆるパラレルワールドカラ来た燦に入れ替わってしまったのではないか、ということを。

「そんな、マンガやアニメでは異世界トリップあるけど、まさか自分が?」

「そのまさかがいま、起きているみたいダネ」

「ど、どうしよう! 葵くんたちの朝ご飯が!」

 さすが主婦をしているだけあって、心配するのはソコなんだネ。

「とりあえず、話を聞かせてヨ。ボクも話すカラ」

 燦と話をして、彼女のいまの生活を知った。さっきも話してくれた通り、燦は葵クンと結婚して、光と太陽という子供を産み、いまは専業主婦をしているらしい。

「昨日は普通に眠ったんだよ? あー、明日も朝ご飯作ってお弁当作らなきゃーって思いながらね」

 そして気がついたら、異世界トリップしていたらしい。

「そうなんだ。じゃあコッチの燦チャンとの生活も話すネ」

 ボクは燦と過ごす毎日を話した。燦と結婚してボクの妻となり、毎日愛し合っていることを。

「え、じゃあ葵くんはどうしてるの?」

 ま、心配するよネ、燦なら。

「葵くんは神崎病院の令嬢、神崎薫サンと婚約中ダヨ♪結構、仲良くやっているみたいダヨ?」

「あ、じゃあ……私と葵くん、別れたんだ……」

 燦は明らかに動揺して、落ち込んでいる。

「私が葵くんとのすれ違い生活に、耐えられなかったんだ……そっか。そう、なんだ……」

 そんな燦を見たくなくて、ボクは言った。

「そんなの、葵クンが悪いんダヨ? 燦チャンのせいじゃナイヨっ」

 ぎゅううと燦を抱き締めて、キスをする。

「あ、待っ……ん、んふ、んちゅっ」

 燦の身体はどこも甘い。ボクは燦がボクの胸を叩いて抗議するのを無視して、キスを深いものに変える。

「や、んん、ちゅ、んちゅ、ふっ」

 やっと離した唇からは、ボクを拒絶する言葉。

「遥くん。私は、遥くんと浮気するつもりはないの」

 だからボクは、燦に言ってやる。

「何を言っているの? その身体はボクの妻の身体ダヨ? ホラ、昨日付けたキスの跡がまだ付いてるし、キミがしている指輪も、ボクが贈ったモノダヨ?」

「あっ……」

 そう、精神ダケが入れ替わってしまった状態なのだ。だから、身体はボクの燦のモノ。

「だからネ、燦。コレは浮気じゃなくて、単に愛する妻と愛し合うダケだから。キミに拒否権はナイヨ」

「あ、だからって、やあん、だめっ」

 燦の抵抗する様が、あの頃の世界にフラッシュバックする。もう燦を泣かせたくないって決めたのに、ボクは止まらなくなっていく。

 燦はボクのモノだ。燦は誰にも渡さナイ。イヤだ、燦だけは取り上げないで……。


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