変わる季節は変化の季節

 近頃、冬から春に向けて季節が移ろうとしているのが、肌で感じる。着ている物も冬服から春服に変わるため、燦はいま衣替えの真っ最中だった。

「うーん、今年の流行色って白だよね。昨年の紫色を着ちゃうと、流行遅れになっちゃうかなぁ」

 燦が悩んでいると、隣りにいる薫が口を挟む。

「あなた、あの彼方遥の妻でしょう? 社長夫人が流行遅れの色を身につけるなんて、あり得ませんわ。彼に恥をかかせる気?」

「いやでも、季節が変わる毎に毎年毎年、遥くんに服を買ってもらうのも悪いし……」

「本当にあなたは庶民ですわね。わたくしがそんなあなたに負けたなんて……本当、信じられませんわ」

 薫はティーカップに入った紅茶を飲んで、ため息を吐く。

 彼方燦と神崎薫。

 2人は色々あった末に、いつの間にかこうしてお互いの家を行き来する仲になった。それも薫が燦に、気まずそうに料理を教わりに来たのがきっかけだった。

『葵さんがあなたの手料理が、恋しいそうですの。ですから……その、わたくしに料理を教えて下さる……?』

 聞けば薫と葵は婚約中で、彼女は葵に一目惚れをしたらしく、葵のために燦の手料理を習得したかったらしい。

「いいよ」

 そんな薫を燦は受け入れた。燦の夫である遥が欲しいがために監禁し、無理やり行為を強要した薫だが、薫も反省しているのが見て取れたので、燦は許した。

 それに燦がずっと心配している葵のために、必死に努力しようとしてくれるのは燦も嬉しくて、その恋を応援していた。

 そして今日はというと、燦と遥の家にて、薫が燦に春服のことを相談されて現在、リビングでたくさんの服を見てもらっていた。

「それも昨年の流行の型ですわ。そっちはまあ、今年もいいでしょうけれど。全部、遥さんに買ってもらえばよろしいのよ、もう」

「使える服は持っておきたいし、流行じゃなくてもお気に入りの服は取っておきたいの」

「ただいまー♪」

 薫と話していると、遥が帰宅した。

「燦チャーン、今日はお迎えナシ? 淋しいヨー」

「遥くん、ごめんね。お帰りなさい」

 遥が燦をぎゅううと抱き締めて、ちゅっちゅとキスの雨を降らせる。

「んんん──っ!! お邪魔してますわ、遥さん」

 薫がワザと咳払いをして、自分の存在をアピールする。そうしないとこのバカップルたちは、この場でコトを始めそうだったので。

「なんだ、また来てたのカイ? 本当、邪魔ダネ」

 遥の顔が嘲笑と共に歪み嗤う。
 遥当人としては、あんな監禁された上に無理やり行為をさせられた屈辱は、一生許せない。

「遥さん、燦さんは春服に悩んでいるみたいですわよ。全部、新しい服に買い換えて差し上げたらいかがですの?」

「えー燦チャン、そんなことで悩んでたのー? 言ってくれればイイのにぃー」

 薫から話を聞いて、遥が燦の頭を撫で撫でしながら言う。

「だって、お金勿体ないし、まだ着られる服を捨てるのも、勿体ないし……」

 いままで庶民として生きてきた燦は、未だにお金持ちの生活には慣れず、やはり1年で服を捨てるのには、抵抗がある。

「別に捨てなくても、リユースすればいいんダヨ♪そしたら別の誰かが燦チャンが着ていた服を着るデショ? エコだヨ♪」

「そっか、そういうことも出来るんだ!」

「明日ボク休みだし、買いに行こう♪」

 2人が仲良く話す中、薫が声をかける。

「わたくしはもう、帰りますわ」

「じゃあネ。もう来ないでネ?」

「また来ますわ、燦さん」

「うん、薫さんまたねっ」

 玄関へと消える薫に燦はにこにこと手を振り、遥は燦を後ろから抱き締めて、嫌そうな顔で見送った。

「さ、燦チャン♪今日はお出迎えがなかったカラ、お仕置きダヨ♪覚悟してネ?」

 燦の頭にキスをして遥が宣言する。

「きゃーこわいー。遥くんが狼に変身しちゃうっ」

「そうダヨ♪燦チャンのコト、食べちゃうカラネっ♪」

「いやあん、遥くんくすぐったいよー」

 ちゅっちゅしながら仲良く寝室へと消えていく2人。やがて燦の甘やかな喘ぎ声が聞こえてくる。2人の愛は深夜まで続き熱々な夜を過ごす。

 
1/3ページ
スキ