キスを教えて

 穏やかな秋晴れ。空は隅々まで青く晴れ渡り、少し冷たい空気を運ぶ。

 朝から洗濯物と布団を干し、掃除機をかけて床を水拭きしたから、家の中まで清々しい。

 そんな気持ちのいい部屋で、私ははるかくんにお茶を淹れていた。


「遥くん、紅茶入ったよ」

「ウン、ありがとうさんチャン」

 ソファーで読書をしていた遥くんが、本を閉じる。

 私はソファーの前にあるローテーブルに、お茶とお手製のチョコチーズケーキを並べて、遥くんの隣りに座る。

「いただきマス♪」

 遥くんが嬉しそうに、チョコチーズケーキを食べる。

「どうかな? おいしい?」

「ウン、とっても美味しい♪」

「ふふ、よかったぁ」

 私もチョコチーズケーキを口に運びながら、遥くんが読んでいた本が気になり尋ねた。

「遥くん、さっき読んでた本ってなに?」

「ン? これ?」

 遥くんが見せてくれた表紙には、

『接吻 フランツグリルパルツァー』

 と、書かれている。

「接吻ってキス?」

「そう、キス」

 遥くんが笑って答える。

「それぞれのキスする場所には、意味があるってこれには書いてあるんダヨ……知りたい?」

「うん、知りたい」

 遥くんがお皿をテーブルに置くので、私もそれにならう。

「じゃあひとつひとつ、教えてアゲル♪」

 そう言うと遥くんは、私の手を取った。そして掌と手の甲にキスをする。

「掌なら懇願、手なら尊敬」

 遥くんが私を引き寄せる。そして額にキスをする。

「額なら友情」

 続けて頬、瞼、唇にキスをする。

「頬なら厚意、瞼なら憧れ、唇なら愛情。それから……」

「あっ」

 遥くんに首筋を吸われる。

「腕と首なら欲望。あとは……」

 遥くんがにこっと笑い、私の足にキスをした。

「それ以外は狂気の沙汰♪」

「やだっ、あははっ。遥くん、くすぐったい」

 遥くんが私のふくらはぎや太ももにキスを何度もする。くすぐったくて、私は笑った。

「もうー、遥くんったら。ふふっ」

 やっと止まったキスの雨に、私は彼の膝に乗り上げる。

「私はやっぱり、こっちがいいな」

 そうして彼の唇にキスをする。

「そうだネ♪ボクもこっちがイイ」

 遥くんと唇を重ねて、お互いの愛を交わす。彼のキスは優しくて甘くて、私は身も心も蕩けてしまった。

「燦チャンは、チョコチーズケーキよりも甘くて美味しいネ♪」

「もう、遥くんのばか……ふふっ」

 そうして2人で、ケーキとお茶のティータイムを楽しんだのだった。






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