幸せな未来

 深夜0時。

 ボクは車に必要な物を詰め込み、眠る燦を連れて出発した。

 行き先はどこにしよう。いや、どこでもいい。燦と子供と3人で、暮らしていけるなら。

 車を走らせて高速に入る。

 燦を安静にさせたい。燦が無事に子供が産めて、のんびり暮らせる場所。

 ボクは頭の中に親子で暮らす様子を、想い描く。

 のどかで人々が温かい、時間がゆっくり流れる場所。そうだ、田舎がいい。

 ボクは彼女を連れて、目的の地を目指すコトにした。







 そうして10年の時が過ぎた。

 あれから燦は、田舎ののんびりとした地で女の子を産んだ。

 髪は燦と同じ栗色で、瞳はボクと同じエメラルドグリーン。性格は燦に似て優しく、それでいてボクに似て、気になるコトには研究熱心。

 穏やかな気候と優しい人々に囲まれて、みどりはすくすくと育った。

 子供の名前は、葵クンが名前に『あお』が入っているから、それで色の名前をつけたのだろう。それは仕方ない。

「碧ー、御飯だよー」

「はーい、ママ」

 燦が呼ぶと碧は走ってきて、燦に抱きつく。

「今日、なーにー?」

「ハンバーグだよー」

「わーいっ」

「ちゃんと野菜も食べてね」

 燦は子供を愛してくれた。最初はイヤイヤだったケド、段々と愛情が湧いてきたらしい。ボクはホッとして、碧が生まれてきてくれたコトを感謝した。

 碧がいるおかげで燦は、どんどん元の彼女に戻ってくれたからダ。

「パパー食べよー」

「ウン、食べよう食べよう」

 そうして3人でいただきマスをして、燦の手料理を味わう。

「こら、碧。ピーマンよけないっ」

「うう、だって苦いんだもん」

「じゃあパパが食べてアゲル」

 ボクが食べてしまうと、燦がボクを叱る。

「遥くん、甘やかさないで」

 その声は冷たいケド、会話はしてくれる。

「ゴメンナサイ、燦チャン」

「パパ、怒られてるー」

 碧が笑うとボクも嬉しくなって、笑った。

 穏やかな穏やかな時間が流れていく。ボクが欲しかった未来が、ここにあった。

 燦、燦、愛してるヨ。




 親子3人、ボクたちは幸せな未来を確かに歩んでいた。







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