幸せな未来

 太陽みたいな眩しい笑顔も、笑い声も聴けなくなってしまったケド、燦は少しずつ体調を取り戻していった。

 やはりクスリをやめたコトで、身体の負担が、なくなっていったのだろう。

「燦チャン、ほら約束のバラ。いっぱい買っちゃっタ」

 彼女に渡すと、彼女は香りを楽しんだ。表情は全く動かなかったケド。

 それから花瓶にバラを活けてから、昼食の準備に取りかかった。

 こちらの世界に戻って、2週間が過ぎようとしていた。まだまだ夢は長そうダ。

「いただきマス」

 今日の昼食はナポリタン。燦は洋食派ダカラ、喜んでくれるだろう。

 けれど燦は途中で具合が悪くなり、台所へと走った。

「燦、燦、大丈夫?」

 彼女の背中をさすりながら心配すると、

「へいき……たぶんまた、にんしんしたから」

 彼女はつらそうに答えた。

「にんしん……」

 そうだ。こっちの世界ではボクは、彼女と子供がつくれるんダ。

「そっか、そう……じゃあ安静にしなきゃ」

 ボクは嬉しくなって、アレコレと考える。

 燦はもしかしたら、子供がいたら生きてくれるかもしれナイ。そしたらボクはこの世界で、自分の子供が持てる。燦との愛しい子供が。

 でも、ボクの思考を燦の一言で壊される。

「はやく、はやく、だたいさせて」

 燦は子供を流すコトを望んだ。

「イヤダ、そんなのできナイ……」

 ボクが拒絶すると、燦は目を見開きボクを責め立てる。

「いままで、さんざん、おろしてきたでしょ。なんで、いまさら?」

 あの頃のボクにとって燦は実験モルモットで、子供なんて邪魔だった。

 ケド、今はチガウ。望んでも出来ない燦との子供が宿ってる。子供を堕胎させるなんて、イヤダ。

「もういい。じぶんで、おろす。あなたとの、こどもなんて、いらない」

 彼女はクスリを取りに行こうとする。

「イヤダ、ダメだそんなコト。燦、お願い、いらナイなんて言わないで」

燦を必死に抱きしめて、彼女の胸に縋る。

「はなして、はなして」

「燦、燦、ごめんネ。でもそれだけはイヤダ」

 彼女を引きずりながら、クスリ棚までいき、安静剤を探し出す。暴れる彼女を抱えながら、なんとか液体を注射に取り、彼女の首筋に打ち込んだ。

「あなたのこどもなんて、いらない、いらない……」

 燦は意識がなくなるまで、堕胎するコトを望んだ。彼女が眠っている隙に、堕胎薬は全て処分した。

 そしてふと思う。ここで毒物も処分しておけば、彼女は死なないんじゃないか。

 そしたらボクは彼女に、子供を産んでもらえるんじゃないか。

 そしてこの別荘を離れて別の地に行けば、燦と子供と3人で暮らしていけるのでは?

 カミサマがくれたチャンスに、ボクはすぐに行動に移した。

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