幸せな未来

 まだ夢は続いているようで、ボクは燦を胸に抱いた状態で起きた。

 穏やかな寝息を立てて、燦は眠っている。

「燦……」

 改めて彼女を見ると、痩せ細った身体には無数の注射痕や痣があった。

「ごめんネ……」

 そして燦の手首に巻かれていた包帯が気になり、解いてみる。もしかしたら、リストカットを繰り返していたのかもしれナイ。

 けれど傷跡はなく、出てきたのは小さな鍵。

「なんだろう……」

 なにか大切なモノのカギかもしれナイ。

「ん……」

 やがて燦は目を覚まし、ボクが見ているカギに気が付く。

「かえして……っ!」

 いつにない怒りが見えて、ボクは少し驚いた。

 取り返したカギを大切に握る彼女に、「大丈夫、取らナイから」となだめる。

「大切なカギなの?」

「あなたには関係ない」

「ウン、そうだネ……朝ご飯、たべようカ」

 彼女をベッドに残して、まずは顔を洗いに行った。それから考えて、コンビニ弁当ではなく、燦が好きな朝食を作るコトにした。

 燦は朝、和食ではなく洋食派だ。ダカラ、洋食を作るコトにした。冷蔵庫を見ればなにもなかったので、スーパーに行き材料を買う。

 そうして新鮮野菜とハムと卵のサンドイッチを作り、それから燦の好きな紅茶を淹れた。

「いただきマス」

 2人ソファーに並んで座り、ローテーブルに並べられた朝食を頂く。

「!!……ティターニア」

「スキデショ?」

 燦のスキな紅茶の銘柄、ティターニア。

 それきり燦は黙ってしまったケド、少しは喜んでくれたカナ?





 朝食を食べ終わると、ボクは燦を残して部屋を出た。

「悪いケド、ここの研究施設は今日で閉鎖する。文句は受け付けナイから」

 全研究員に言い渡し、燦を実験モルモットから解放した。

 葵クンがこの別荘を見つけて乗り込む時、燦はボクに毒を盛る。その時がくるまでボクは、彼女と2人でゆっくり過ごそうと思った。

「燦、今日はちょっとサンポしよう」

「……」

 力無くこくりと頷いた燦を連れて、部屋を出た。

 別荘のあるこの山林は少し肌寒く、燦に上着を着せて外へとサンポに行く。

「燦チャン、見てごらん。あそこにキレイな花が咲いてる」

「うん……」

 ボクは名前の知らない花を一輪、手折って燦に渡す。

 燦は花を片手でくるくる回して、眺めている。

「お花、スキだもんネ。今度、燦チャンにバラの花を買ってあげるネ」

 燦はボクを見て、それからまた花に視線を戻す。

 最後の時までゆっくりと、燦と過ごしていこう。

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