再会する2人の想いはすれ違い

さん

 街中で、懐かしい声に呼ばれて振り向くと、人混みの中に彼が立っていた。

あおいくん」

 私は葵くんの元へと駆け寄り、話しかけた。

「久しぶりだね、葵くん」

「燦、元気にしてた?」

「うん、元気だよ」

 定型的な挨拶を交わして、ここではなんだからと、2人でカフェに入る事にした。

「ミルクティーひとつ」

「僕は抹茶ラテ。燦、おごってあげるから、ケーキも食べなよ」

「本当? じゃあチョコレートケーキひとつ」

 店員は注文を聞くとお辞儀をして、去っていく。

「燦は相変わらず、チョコレートが好きだね」

「葵くんだって、抹茶ラテ好きだよね」

 葵くんとクスクス笑い合って、話を続ける。

「葵くん、また痩せた? ちゃんと食べてる?」

 彼を見れば、1ヶ月前に比べてまた細くなったようだった。

「夏はどうもダメでね。秋になったらまた戻るよ」

「あ、じゃあ私、またなにか作って持っていこうか?」

「ん。そうしてくれると助かる。燦の手料理は美味しいからね」

 微笑む葵くんに、私はむすっとした顔をしてみせ、怒ったふりをする。

「もう。付き合っている時に聞きたかった」

「ごめんね、燦」

 葵くんは言葉で伝える人ではないから、付き合っていた当時は淋しい想いもした。

 けれど、別れて幼馴染みに戻ってからは、以前よりずっと言葉で伝えてくれる。

「ミルクティー、抹茶ラテ、チョコレートケーキをお持ちしました」

 そこへ店員が、飲み物とケーキを運んできてくれた。店員にお礼を言ってから2人、飲み物に口をつける。

「最近病院、忙しい?」

 ミルクティーを一口飲んでから、私は話を切り出した。

「そうだね。急患とかもあるし、病院で寝泊まりかな」

「ダメだよ、それは。ちゃんと家に帰って寝ないと」

 私が諭すと、葵くんは困ったように微笑む。

「誰かさんがいなくなってから、家にいても淋しいばかりでね」

 その言葉に、私は口をつぐむ。

「もし戻って来てくれるなら、僕は家に帰るようにする。また君の手料理が毎日、食べられるならね」

「……葵くん、ずるい」

 私が心配しているのにつけいり、揺さぶってくるのだ。

 葵くんが抹茶ラテを飲むので、私もミルクティーを飲む。 

「ずるくたっていいよ。僕は今でも君を愛してる」

 葵くんは私の大好きだった笑顔で、私の瞳を覗き込んだ。

「知ってるでしょ? 私にはもう、付き合ってる恋人がいるってこと」

「知ってるよ。あの綿アメ頭だろ?」

「綿アメ頭って……」

 私の現在の恋人、彼方遥かなたはるかくんと葵くんは、犬猿の仲だ。どちらも医療関係の仕事なので、時々逢っているみたいだけど。

「ずっと待ってるから」

 微笑んだ葵くんに、私は困ってしまう。

「誰かいい人いないの?」

「燦意外、いらない」

 きっぱりと言い切ってしまう。

「心変わりしたら、連絡して」

 葵くんは伝票を取り、席を立つ。

「その時は、たっぷり愛してあげる」

 葵くんの妖艶な微笑みに、心臓がドキンとする。

「またね、燦」

 葵くんが去っていく。

 一人残された私は、ため息をつく。そして、葵くんの幸せを祈った。

 葵くんにも、愛する女性が出来ますように。葵くんとの、すれ違い生活に疲れた私の前に現れた、遥くんのように。葵くんを支えてくれる女性が、現れますように。

 私は葵くんの幸せを、いっぱいいっぱい祈った。

「葵くん、私の事はもう忘れて……」

 時間が止まったままの彼に、時計を動かす女性が現れる事を、祈り続けたのだった。




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