早く帰った夜は……

「こうしてクマさんは、森の仲間たちといつまでも、仲良く暮らしましたとさ」

 すやすやと安らかな寝息を立てる息子のひかる

 私は起こさないように絵本を閉じ、そっと子供部屋を出て行った。

「光、寝た?」

 ネクタイを外したスーツ姿のあおいくんが、私に尋ねる。

「うん、ぐっすり」

 今日は珍しく早く帰って来た葵くんに、光は大はしゃぎだった。

『パパともっとおはなしするっ!』

 そう駄々をこねて、なかなか眠らなかったのだ。

「光、葵くんに遊んでもらって大はしゃぎだったね」

「そうだね。いつも一緒にいられない分、遊んであげたかったから」

「うん、ありがとう葵くん。お疲れ様」

 私と葵くんはダイニングテーブルの席に着き、話をする。

「そういえばね、葵くん。この間、光が野良猫を見て『ねこちゃん、いいな』って言ってたんだよ。光の情操教育に、猫を飼うのはどうかな」

 私がそう提案すると葵くんは考えて、言葉を口にした。

「猫もいいけど……光は一人で淋しいんだろ? だったら、兄弟を作ってあげる方がいいんじゃない?」

「兄弟って……葵くん、そのがんばるの?」

「がんばるよ。家庭は賑やかな方がいいからね。さんも前に言ってたでしょ? とりあえず、10人は作ろうか」

 葵くんが真面目な顔で冗談を言うので、私は吹いてしまった。

「葵くん、それ多過ぎ。年子がいっぱいになっちゃう」

「大丈夫だよ。1回に5つ子を儲ければ
2回産んだら10人だよ」

「葵くん、ビッグダディになっちゃう」

「いいね、それ。なんならギネス狙う?」

 2人でクスクス笑い合って、楽しいひとときを過ごす。

「あっ、もうこんな時間」

 時計をふと見れば、夜の11時を回っていた。

「葵くん明日も早いんだし、寝ないと」

「じゃあ、しようか」

「えっ? 今から? 明日早いんだよ?」

「大丈夫、僕はビッグダディになる」

「ちょっとぉ、葵くん笑かさないでぇ」

 葵くんと笑い合いながら、夫婦の寝室に行く。

「じゃあ、よろしくお願いします」

 私が真面目なふりをしてお願いすると、葵くんは笑って答える。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 そうしてベッドの中、葵くんと私は月をも溶かすような熱々の夜を過ごした。





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