穏やかな思い出語り

「葵がな、随分と嬉しそうに帰って来るようになったのは。聞いても答えてはくれなかったがあの時に燦さん、あなたと出逢ったんだね、葵は」

「お義父さん……」

「燦さん。あなたと出逢って葵は変わったよ。前まではケンカばかりして人と関わらない、興味ないといった生き方をしていたが、あなたと出逢い、随分と優しくなってくれたし、人に少しは気を遣えるようになった」

 葵くんのお義父さんは優しい表情で、私に笑いかける。

「あんな荒くれた葵を、燦さんが変えてくれた。感謝してもしきれないよ」

「そんなお義父さん。そんなの私だって同じです」

 葵くんの存在がどれだけ私の支えになってくれたか。

「葵くんと出逢えたから今の私がいるんです。彼と出逢えなければ、私だって今どんな風に生きていたか」

 お義父さんが、そうか。と一言呟いて続ける。

「そうか。ふたりは出逢うべくして出逢ったんだね」

 そう微笑んで。

 葵くんと私。高校で知り合って学校の屋上で勝負するようになり、いつの間にかこうして一緒になり、ふたりの子供に恵まれて暮らしている。

 そんな、偶然がたくさん重なった必然。

「ただいま」

 今日の葵くんは帰りが早かったようだ。

「おかえりなさい、葵くん」

 私が出迎えに行くとただいまのキスをしてくれる。

「葵、おかえり」

「なんだ、来てたの?」

 葵くんはお義父さんに声をかけてから、手を洗い着替えに行った。

「それじゃあ、私はこれで帰るよ」

 イスから腰を上げるお義父さんに、私は慌てて言う。

「そんな、晩御飯を食べて行って下さい」

「いや、いいよ。葵が帰って来たことだし、そろそろお暇するよ」

 帰ろうとするお義父さんに、着替えてきた葵くんが、

「……晩酌、付き合ってくれないの?」

 と言う。

「葵……」

「燦。何かおつまみを作ってくれない?」

「うん、わかった。すぐ作るね!」

 葵くんとお義父さん、仲良く隣りに席をついて。そうしてぽつりぽつりと親子の会話をし出したふたりに、私はキッチンから微笑ましく眺めたのだった。



 完

2/2ページ
スキ