穏やかな思い出語り

「こんにちは、燦さん。お邪魔するよ」

「お義父さん、こんにちは」

「わあーい、じいじ、じいじ」

「じいじ、こんにちはーっ!」

 祝日で子供たちがお休みの今日、葵くんのお義父さんが遊びに来てくれた。

 子供たちは来る前から「じいじ、まだかな」とそわそわしていた。

 私には両親はいなくて、葵くんのお義母さんも亡くなっているので、ばあば、じいじ、という存在は子供たちにとって葵くんのお義父さんだけ。
 なので、お義父さんが来ると子供たちはすごいテンションなのだ。

「じいじ、あーそーぼっ」

「じいじ、トランプしよー」

 ふたりがお義父さんの手を引いて、リビングへ向かう。

「よしよし、手を洗ってからな」

 お義父さんは洗面所で手洗いを済ますと、さっそく子供たちの相手をしてくれた。

「すみません、お義父さん」

「いやいいんだ。私も可愛い孫たちに会えて嬉しいからね」

 ふたりの面倒を見てくれるお義父さんに甘えることにし、その間に私は2回目の洗濯をしたり、朝干した布団を取り込んだりと家事をこなした。
 やっと一息つける頃にはふたりとも遊び疲れて、お昼寝タイムとなっていた。

「助かりました、お義父さん。今、お茶を淹れますね」

「ああ、ありがとう」

 葵くんのお義父さんも私と同じ紅茶派なので、『オベロン』の方を淹れることにする。私の好きな紅茶の銘柄『ティターニア』はアールグレイで『オベロン』はダージリンなのだ。
 葵くんのお義父さんはこちらの方を好んでいるので、こちらにする。

「ああ、落ち着く香りだな。ありがとう燦さん」

「いえ、こちらこそ。子供たちの相手をしてもらっちゃって」

 お義父さんとふたり、リビングのテーブルのイスに座り、話をする。

「しかし葵が家庭を持つようになるとは。本当に燦さんにはお礼をいくら言っても足りないくらいだよ」

 お義父さんはため息を吐きながら、葵くんの昔を話してくれた。

「葵はね、早くに母親を亡くしたせいか、随分と我慢をするような子でね。私も忙しいせいで構ってやれなかった。中学2年の夏くらいかな、葵が今までの我慢を爆発させたのは。いわゆる反抗期でね、手がつけられなかった」

 お義父さんが昔を懐かしむように笑う。

「しょっちゅう同級生や上級生とケンカの毎日でね、あの子はケンカが強いもんだから、片っ端から相手をしてね。葵が病院送りにした子たちの親たちに、私は謝りに行く日々だった」

 そんな葵が高校生になってからだよ、とお義父さんは言う。


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