異世界トリップ葵編

「じゃあお買い物に行って来るね」

「待って、僕も行くよ」

 燦1人だと心配で、僕もついて行くことにした。

「街の中は元の世界と変わらないね」

 近所のスーパーに行き、商品を見て回る。

「あ、イチゴ……」

「買う? 葵くん、昔から果物好きだもんね! じゃあ練乳も買わなきゃ」

 僕の好きな物を知っている彼女は、いつもの燦と変わらなくて。ただ、気持ちだけは僕じゃなくて、あの男のもので、その知っているのに知らない君を見るのが辛かった。

 無邪気に笑う燦を見ていて、僕は反省をしてみる。僕は妻の燦を、毎日あんな風に笑顔に出来ているかな。辛い思い、させてないかな。彼女はすぐに我慢しちゃうから心配でたまらない。

 そんなことを考えていたら、

「燦チャーン♪」

 あの耳障りな声が聞こえてきて、僕はそちらを見る。

 見れば燦があの男に後ろから抱きつかれていて、頬にキスをされている。

「1度死んだら? 綿アメ頭」

「痛っ!」

 僕は思いっきり後ろから奴の背中に蹴りを入れた。

「アハハ、葵クン相変わらず足癖悪いネ」

「燦に手を出すからだろ?」

 燦はと見ると、あの男のことを優しい瞳で見つめている。

「……っ」

 それがなんだか癪に障って僕は、スーパーの店内で燦にキスをした。

「あおいくんっ……んちゅ、んふ、んんっ」

「やだなぁ、見せつけなくてもイイのに。独り身は辛いナァ。じゃあ退散、退散」

 燦があの男を気にするのがわかる。
 唇を離せば燦は、あの男に話しかける。

「遥くん! その、ちゃんと食べてる? 野菜取ってる? 眠れてる?」

 燦の言葉に振り返って、あの男が彼女に近寄る。

「燦チャン、お母さんみたいダヨ? クスクス……そんなに心配なら、ボクのお嫁サンになってヨ?」

 首を傾げて尋ねる綿アメ頭に、僕が代わりに答える。

「君は一生独身だよ。燦はあげないから。僕のだからね」

 そうして燦を抱き締める腕に力を込める。

「ハイハイ、ワカリマシタ。ボクは悲しいので、帰りマス」

 はあーっとため息をついて、あの男が帰って行く。

「遥くん、ちゃんと生活してるのかな……」

「燦、こっちのあの男まで心配しなくていいよ。……元に戻ったら、心配してやればいい」

「うん……」

 あの男を気に掛ける燦を見るのが辛い。早く、早く、燦。戻っておいで……。


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