九堂家のある1日

「じゃあ、ボク帰るネ」

「ええ~、はるかくんもうかえるのー?」

 遥くんに抱きついて淋しがる太陽に、彼は優しくその頭を撫でてあげている。

「ゴメンネ、太陽。午後から会議があってネ、出なくちゃ行けないんダ。また会いに来るからネ」

「やくそくだよー?」

「ウン、約束、約束」

 2人して指切りをしてから、遥くんは私の方に向き直る。

「じゃあネ、燦。また会いに来るヨ」

「遥くん、ありがとうね。太陽と遊んでくれて。太陽もお礼を言って」

「はるかくん、ありがとう」

「ドウイタシマシテ♪」

 そうして遥くんは手を振って、玄関を出て行った。

────

────────

 その日の夜。

「で、またあの男が来てたの?」

 帰って来た葵くんに遥くんの話をすると、彼はみるみる機嫌が悪くなる。

「太陽ねー、はるかくんをあいじんにするのー。1番すきなのはパパだけど、パパあいじんにしたら、かなしんじゃうから、あいじんは、はるかくんにするのー」

 太陽は葵くんの膝の上に抱っこされながら、嬉しそうに話す。

「ダメだよ、太陽。好きな人はひとりにしないと」

「ええ~なんで~?」

「ひとりの人を愛し抜くのが、本物の愛だからだよ。太陽はパパとあの男のどっちが本当に好きなの?」

「パパが1番だよー」

 その答えを聞くと葵くんは、嬉しそうに瞳を細めて笑い、

「じゃあ太陽は、パパだけを愛してね」

 と、太陽の頬にキスをする。

「わかったー」

 太陽はパパからのキスが嬉しくて、お返しに自分からもちゅっちゅしている。

「遥くんもね、かっこいいんだし、誰かいい人が見つかるといいんだけど……。見てるとなんだか淋しそうで、食事もちゃんと取ってるのかなー?」

 私が話すと途端にまた不機嫌になり、葵くんが興味なさそうに話す。

「いいんだよ、あの男は甘い物ばかり食べて栄養失調になればいいのさ。ウサギみたいに淋しくて死ねばいいのに」

「葵くん、そこまで言うの~?」

 私が笑っていると、話を聞いていた光が、慌て出す。

「ねえパパ、ママ。はるかくん死んだら僕イヤだよ! うちの『ようし』にして、5人で暮らそうよ!」

 私のエプロンの裾を掴んで訴えかけてくる。

「光、養子なんて言葉、いつの間に覚えたの?」

 私は光の日々の成長にびっくりしながら、答えようとしたら、先に葵くんが話した。

「ダメだよ、光。絶対にあの男を養子になんてしないから」

 力強い言葉で葵くんが養子案を却下する。

「はるかくんかわいそうだよ、パパ! はるかくんがもし僕たちのかぞくになってくれたら、ずっと遊んでくれるし、色々なこと教えてくれるよ?」

「はるかくんが、まいにち、あたしんちにいたら、太陽うれしいー」

 子供たちは盛り上がり、葵くんはどんどん不機嫌になっていく。まずい、この話は切り上げないと。

「ほらほら、もうこの話はお終い。ご飯食べようねー」

「はーい」

「はい、ママ」

「……」

 そうして遥くん養子案は、なんとか子供たちに忘れてもらうことが出来た。

2/3ページ
スキ