いつまでも幸せに

 今日は珍しく半日で帰って来たあおいくん。

「お帰りなさい、早かったね」

「うん、たまには早く帰らせてもらわないとね」

 玄関でおかえりのキスをしたあと、彼に聞く。

「まだ晩御飯までには早いから、先になにか軽くおつまみでも作る?」

「うん、お願い」

 私は了解して、手早くおつまみを作る。

「今日もお疲れ様、葵くん」

「ありがとう、さん

 葵くんに日本酒を注いでから、一緒のテーブルにつき、何気ない話をする。

「最近、寒くなってきたよね。葵くんが朝、なかなか起きられなくなる季節だよ」

 葵くんは寒がりで、冬の朝はなかなか起きられないのだ。だから私が彼を起こす、アラーム係になる。

「冬は寒いから嫌いだ」

「夏は暑いから嫌い、でしょ?」

 私がクスクス笑うと、葵くんは笑って「そんな事ないよ」と言う。

「え? なんで?」

「だって、夏には燦の誕生日があるだろ? だから大切な季節だよ」

「葵くん……」

 私はじーんとしてしまい、それから葵くんに笑って話す。

「なら、私は冬が好きだよ。葵くんの誕生日があるもの」

 お互いがお互いを大切に想い合って生きていく……私たち夫婦はきっと、これからも幸せな毎日を送っていく。

 私は彼を見ながら、そう思った。





「あっ、そうだ。葵くん、ちょっとテレビ観てもいい?」

「ん? いいよ」

 私は昨日録画しておいた夜ドラマ『はかない恋の物語』を観る事にした。

 このドラマは殺人犯の男が、ヒロインに恋をして求愛するロマンスホラーで、視聴率が高い人気ドラマだ。

 今日は第7話『冷たい雨』というタイトルで、ヒロインに拒絶された男が雨の中、絶望に打ちひしがれる話だった。

 エンディングのテーマソングが流れる中、私はほう、と息をつく。

「こ、今週も怖かった……」

「そんなにドキドキしながら観てるの?」

 クスっと笑う葵くんに、私は反論する。

「だってだって、殺人犯に愛されちゃうんだよ? もし自分だったらって思ったら、すごく怖いよ」

 あの殺人犯役の俳優さんは、表情の演技が上手く、狂気と欲望の孕んだ瞳が忘れられない。

「大丈夫だよ。もしそんな奴が燦の前に現れたら、僕が殺すから」

「いや、葵くん。お医者さんなんだから、殺すとか言わない」

 私が軽くめっと注意しても、彼は意に介さず続けて話す。

「関係ないよ。燦に危害を加える奴は、みんな僕がやっつけるから。あの綿アメ頭もね」

「遥くん? 遥くんは危害加えないよー」

 遥くんはふざけた態度をよく取るけど、優しくて親身に話を聞いてくれるいい人だ。

 私が笑ってそう言えば、葵くんにため息をつかれてしまう。

「燦は人を信じやすいから……あの男は内側に、狂気を抱えているよ。僕にはわかる」

 真面目な顔で話す葵くん。

「ストーカーにならないか心配」

「大丈夫だよ。葵くん、心配し過ぎだって」

 そして葵くんが私の瞳を見つめる。

「燦、なにかあった時は言ってね? いつでも話を聞くから」

「葵くん……」

 彼は最近、私との時間を作ってくれる。仕事が忙しく大変なのに、夜遅く帰って来ても必ず、話す時間を作ってくれるし、その……夜の営みの方もしてくれる。

 彼の優しさが心に沁みる。

「ありがとう、葵くん。その時はちゃんと、葵くんに話すね」

 私の言葉に満足そうに彼が笑った。葵くんと私は、こうして年を重ねていくんだな……私は彼と話ながら思う。


 葵くん、ずっとずっと仲良し夫婦でいようね。

 幸せに感謝して、私は葵くんとのおしゃべりを楽しむのだった。





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