今ある奇跡を大切に

 黒のシンプルな鍵付きの日記。

 一生懸命書いているさんが気になって、僕は聞いてみる。

『ねえ、どんな事書いてるの? 見せて』

『んなっ、そんなの見せるわけないじゃない。日記なんだからっ』

 日記を書く燦の後ろに周り見ようとすれば、彼女がすぐに日記を閉じた。

『なんで? 今の時代、日記は人に読んでもらう物だよ。ブログに載せて公開するほどなのに、まして鍵まで付けて見せないなんて、今時いないよ』

『ここにいますよーだ』

 燦が舌をべーっと出す。

 ここでふと気が付く。あれ? デジャヴかな?


『アナログ人間』

『なんとでも言ってくださーい。これには人に言えない事が色々書いてあるんだから、見せ物じゃないの』

『色々って……えっちな事とか、えっちな事とか?』

『……!!』

 そうだ、僕がからかえば、燦はみるみる顔を赤くして怒ってみせたんだ。

『……殴ってもいい?』

『勝負かい? オーケイ、君は強いからわくわくするよ』

『……ハアーー』

『何、そのわざとらしいため息。むかつくんだけど』

 ああやっぱりこれは、デジャヴだ。次に燦が言う言葉は……

『そんなに私の日記、気になる?』

 だから僕は、こう言ったんだ。

『気になる』

『んーじゃあ、私が死んだ時、見せてあげる』

 一言一句、同じだった事に驚きつつ、僕は思う。

 燦の秘密の日記が見れるのは、老後の楽しみになりそうだと。

 いつか燦に僕はプロポーズをして結婚して、子供を作る。

 家庭は賑やかな方がいいから、3人は欲しいな。それから子供たちが自立して、燦と2人で年を重ねていく。

 そうして燦を看取った後、僕は彼女の日記を開く……






……でも、それじゃあ遅すぎる。

「燦」

「ん?」

 僕は愛する燦に、キスをした。

「もっと感情をぶつけていいんだからね? 日記に書いて我慢しないで、不満があったら言いなよね」

あおいくん……」

 燦はびっくりした顔をして、それから恥ずかしそうにこう言った。

「じゃあ、さっそく。……もっとえっちがしたいです……」

 最後の方は小さくなりごにょごにょ言うので、僕はもう1度聞く。

「燦、もう1度言って。聞こえなかった」

 聞こえてたけど、いじわるで聞く。

「うう……もっとえっち、したいです葵くん」

「じゃあしようか、えっち」

「ええっ? 今から? もう夜遅いのに、明日の仕事大丈夫?」

 燦は心配するけど、愛してる彼女の願いを聴かないで寝るわけにはいかない。

「大丈夫、僕もしたいから」

 そうしてベッドまで連れて行き、燦にキスをする。

「愛してるよ、燦」

「私も愛してる」

 燦をゆっくりとベッドに押し倒して、彼女との愛の営みに溺れていった。

 今ある奇跡を大切にしなきゃだめだ。ちゃんと彼女の想いを聞き出さなくちゃ。

 なぜかデジャヴを感じた時に、言われた気がしたんだ。

 燦、これからは君の想いを教えてね。

 行為の熱に夢中になる彼女を見ながら、僕はもう1度、燦に言った。

「愛してるよ、燦」





1/1ページ
スキ