穏やかな時間

 ぴちょんと、お風呂の中で水滴が落ちる。

 夜遅くに帰って来たあおいくんは帰ってそうそう「一緒に入ろう」と誘ってきて、現在2人で湯船に浸かっている。

 葵くんに後ろから抱きしめられて、私は彼の首筋に頭を預けた。

「久しぶりだね、一緒に入るの」

 湯船の温かさに、ほうと息をつきながら、葵くんに話しかける。

「そうだね。こうやってさんを補給しないと、企業戦士はやってられないからね」

 葵くんが私の頬にキスをする。

「外で戦ったら、家では戦士の格好を脱いで、ゆっくりしてね」

 葵くんがクスリと笑う声が、頭の上から降ってくる。

「うん。ずっとこうしていたい……」

 葵くんが私の顎を上向かせて本格的なキスをするので、さっきからのぼせそうだった私は、ストップをかけた。

「待って待って。続きはお風呂から出てからにしよう」

「しょうがないな」

 葵くんは渋々やめてくれた。

 今キスされたら、葵くんお風呂でやり始めそうだし、私のぼせそうだし。

「ほら、葵くん。頭洗ってあげるから、いったん出よう」

 2人湯船から出て、バスマットの敷かれた床に座る。

「じゃあ、シャワーで濡らすよー」

 大人しく私にされるがままの葵くん。

 2人向かい合った状態でシャンプーの泡を立てて、シャカシャカと葵くんの頭を洗っていく。

 彼の黒髪はあっという間に泡まみれになり、私は地肌を指の腹で揉むようにしてマッサージをする。

「ん……気持ちいい」

「全体をマッサージしていくからねー」

 葵くんが私の腰に腕を回し、胸に甘えてくるのでやりにくいけど、なんとかがんばる私。

 耳の後ろから付け根、頭頂部から後ろへと丁寧にほぐしていく。

「じゃあ、シャワーで流すよ」

 シャワーヘッドから出てくる熱いお湯を調整してから、葵くんの頭にかける。

 もこもこと泡立っていたシャンプーを洗い残しがないように、しっかりと流していった。

「はい、終わり」

「ん、ありがと」

 そうしてもう1度湯船に入り直してから、お風呂を出た。

 2人パジャマに着替えたあと、髪を乾かし終わった私は、適当に髪を拭くだけの葵くんの髪も乾かす。

 葵くんはシャンプーの時からすでに眠そうだったので、すぐ眠れるようにベッドでドライヤーを使った。

「うん、短いからすぐ乾くね」

 ドライヤーを止めて片付けてから寝室に戻ると、葵くんはベッドに腰かけて、もう半分夢の中だった。

「眠いなら、ちゃんと横にならなきゃダメだよ」

 ゆっくりと彼の身体を倒そうとすると、

「燦も一緒に……」

 葵くんに抱きしめられる。

「うん、わかった」

 本当は食器を洗ってしまいたいのだけど、葵くんが寝てからにしよう。

 2人でベッドに潜り込むと、葵くんは眠そうな顔でキスをしてくる。

 してくるのだが、半分眠っているので、途中途中キスが止む。

 したいけど眠い、眠いけどしたいといった感じだ。

「葵くん、寝よう」

「燦……」

 葵くんをよしよしして、甘えてくる彼の頭を胸に抱く。

「……」

 どうやら眠ってしまったようだ。穏やかな寝息が聞こえてくる。

「葵くん、お疲れ様。明日もがんばってね」

 そっと呟いてから、私は彼が眠るまでずっと傍で横になってようと思った。

 えっちがお預けになっちゃったのは残念だけど、また彼が元気な時にしてもらえばいい。

 葵くんの寝息を聞きながら、私は明日のお弁当のおかずを考えるのだった。





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