交わらない想いは、いつか交差する

 数学の授業が終わり、休憩の10分間。
 蒼空は机の上に座りながら、クラスの男子と会話していた。

「なにも、全部没収しなくてもさ~」

 ちぇっ、と拗ねる蒼空に、

「だよな。だから柴田の奴、女にモテないんだよ」

「わかるー! マジ、それな。頭固すぎだしっ!」

 楽しそうに話す蒼空を見て、結美華は微笑ましく思う。

 蒼空と結美華。
 ふたりは家が隣同士で、3歳の頃からの付き合いだった。家族ぐるみで仲が良く、ふたりはお互いの家を自分の家のように行き来する。

 昔からずっと一緒だった。蒼空の傍には私がいて、私の傍には蒼空がいた。

 これからもそれは続く……結美華は自分を安心させるように、言い聞かせた。

 蒼空は昔から誰にも優しくて正義感が強く、彼のクラスでは嘘のようにいじめがなかった。
 みんな蒼空のことが好きで、ケンカの仲裁も蒼空が入れば、

「蒼空が言うなら……」

 と、すぐに止んだ。

 そんな優しくて人気者の蒼空だから、これまで何人もの女の子に告白されてきた。その度に私は、蒼空が誰か他の子のものになるんじゃないかって、不安に駆られる。

『ごめん。俺、おまえのこと、そういう風には見てないんだ。ごめんな』

 でも蒼空は、そうして告白してきた女の子の気持ちを、一度も受け入れたことはなかった。

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『なんかさっき、告白されてたね』

『ちょ、見てたのかよっ!……まあ俺、あの子のこと好きって訳じゃなかったし……いや、クラスメイトとして好きだけどさ』

『人として好きってこと?』

『うん、そんな感じ』

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 蒼空はまだ恋を知らない。
 だから幼なじみのポジションが一番、蒼空の近くにいられる。

 蒼空……。

 まだ、男子たちと笑い合っている蒼空を見る。

 まだ恋を知らないままでいて……。

 結美華は心でそっと祈った。


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