4月、お花見
4月といえばお花見シーズン。テレビでは有名なお花見の場所で、シートを広げて楽しむ人たちがお弁当を広げている様子が映し出されていた。
「花見なんて何年もしてないわねぇ」
職場の休憩室、お昼休みが一緒になったレジ係の高橋さんが、テレビを観ながらお弁当を食べる。
「あー、私もそうですよ。学生の時以来かなー」
学生時代、毎年恒例でみんなで集まって、シートを広げて楽しんだものだ。
「桜は通りすがりにちらりと見るだけで、じっくり愛でたりしなくなるわよね」
「そうですね。そういえばずっと、じっくりなんて見ていないかも」
テレビでは既に出来上がった中年男性が、いびきをかいて寝ている場面が映し出されている。
今度、久しぶりにじっくりと見てみるかな……。
テレビの中で優美にひらひらと花びらを散らす桜を見て、夏希は思った。
────
────────
「ただいまー。あー疲れたー」
「あ、おかえりー」
夜の11時。
湊が帰って来た。
「いつも残業お疲れ様。ご飯、食べるでしょ?」
「うん、ありがとう」
湊の分のおかずをチンして、テーブルに並べる。
「おー、今日はほうれん草のごま和えと、鶏の煮物か。いいね、おいしそー」
いただきますをして湊が食べ始める。
「そーいえばさ、帰りに近くの公園を通ったら、夜桜が綺麗だったよ。外灯に照らされて、ライトアップされてるみたいでさ」
「そうなんだ。今日、ちょうど昼休みにテレビでお花見やってる人たちを見て、久しぶりにじっくり見たいなって、思ったとこなんだよね」
「あ、じゃあ俺が食べ終わったら見に行く? コンビニでなんか団子でも買ってさ」
「あ、本当? じゃあ行こっか」
湊の提案で、夜桜を見に行くことになり、彼が食べ終わった後、一緒に出掛けることにした。
まあ近所の公園だしもう夜で後少ししたら寝るし、マスクでもして出掛ければいいか。
と、化粧はしないで出掛けることにして、軽くサンダルを引っ掛けて、湊と2人、外に出た。
「うう、4月とはいえ、まだまだ寒いね」
「風邪引かないようにしなくちゃな」
まずはコンビニを目指して歩いて行く。夜目にも眩しいコンビニの明かりが見えて来る。我が家からコンビニへは5分くらいで着くので、あっという間だ。
自動ドアが開くとチャイムが鳴り、私たちは真っ直ぐ、お菓子コーナーへ行く。
「あ、3つ並んだ串団子はないな」
「もう大福とか饅頭にしちゃう?」
「なんかそれって、お花見というよりお月見っぽくなりそうだけど……ま、いいか」
湊はイチゴ大福を3つとコーヒー、私は黄身あん饅頭を1つとココアを選んで、レジへ向かう。会計を済ませて、いざ公園へ。
歩きながら、湊とたわいない話をする。
「学生の頃はイベントがある度に、集まってたよな。今度みんなで集まりたいな」
「そうだね。みんな元気してるかな?」
私と湊は同じ大学のサークルに入っていたので、その頃の友達は共通の友達だ。
「清花とか結婚して子供いるから、大変だろうね」
「この間写メ送ってもらったけど、子供大きくなってたよ」
「マジか、後で見せて」
「うん」
そんなたわいない話をしていたら、公園に着いた。
「おお、桜吹雪!」
「ねぇー、すごいわ」
さっそく近くにあるブランコに乗りながら、コンビニで買った物をそれぞれ口にする。
「綺麗だな」
「本当、ライトアップされてるみたい」
桜の下には死体が埋まっている、とかいうが、それぐらい妖しく優美な様を夜桜は表している。ひらりひらりと舞い落ちる花びらを見ながら、湊と軽くブランコを漕ぐ。
「なんか仕事ばっかりの毎日だからさ、たまにはこういう季節の移り変わりを楽しんでおかないと、1日1日がすぐ過ぎて、思い出とか残らなくなりそうだよね」
私がしみじみと言えば、
「そうだね、年中行事は色々あるんだし、ひとつひとつを楽しんで思い出残して行こう。で、後で振り返ってさ、あの時はああだったなって話したりして、老後の楽しみのひとつにさ」
と、湊が笑う。
「老後かぁ、どうなってるかな私たちは」
「多分、今と一緒で2人でこうしてのんびり過ごしてる気がする」
「そうだね、こーやって和菓子とか食べながらね、生きてるだろうね」
2人で和菓子とそれぞれ飲み物を口にしながら、桜吹雪を楽しむ。
「さて、食べ終わったし、帰りますか、湊くん」
「うん、帰ろっか」
「また来年も見に行こうね」
「その時は、みんなで集まってシート敷いてわいわいやりたいな」
「確かに。来年はみんなで集まろう」
湊と2人並んで歩きながら、家までの道を辿る。
来年もまた桜は綺麗に咲くだろう、私たちは来年の楽しみをひとつ作って、また明日の仕事を考える。
「明日も仕事、頑張りますか」
「おー!」
こうして年を重ねていくんだな、と考えながら、まだまだ寒い4月の夜を2人歩いて行った。
完
「花見なんて何年もしてないわねぇ」
職場の休憩室、お昼休みが一緒になったレジ係の高橋さんが、テレビを観ながらお弁当を食べる。
「あー、私もそうですよ。学生の時以来かなー」
学生時代、毎年恒例でみんなで集まって、シートを広げて楽しんだものだ。
「桜は通りすがりにちらりと見るだけで、じっくり愛でたりしなくなるわよね」
「そうですね。そういえばずっと、じっくりなんて見ていないかも」
テレビでは既に出来上がった中年男性が、いびきをかいて寝ている場面が映し出されている。
今度、久しぶりにじっくりと見てみるかな……。
テレビの中で優美にひらひらと花びらを散らす桜を見て、夏希は思った。
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「ただいまー。あー疲れたー」
「あ、おかえりー」
夜の11時。
湊が帰って来た。
「いつも残業お疲れ様。ご飯、食べるでしょ?」
「うん、ありがとう」
湊の分のおかずをチンして、テーブルに並べる。
「おー、今日はほうれん草のごま和えと、鶏の煮物か。いいね、おいしそー」
いただきますをして湊が食べ始める。
「そーいえばさ、帰りに近くの公園を通ったら、夜桜が綺麗だったよ。外灯に照らされて、ライトアップされてるみたいでさ」
「そうなんだ。今日、ちょうど昼休みにテレビでお花見やってる人たちを見て、久しぶりにじっくり見たいなって、思ったとこなんだよね」
「あ、じゃあ俺が食べ終わったら見に行く? コンビニでなんか団子でも買ってさ」
「あ、本当? じゃあ行こっか」
湊の提案で、夜桜を見に行くことになり、彼が食べ終わった後、一緒に出掛けることにした。
まあ近所の公園だしもう夜で後少ししたら寝るし、マスクでもして出掛ければいいか。
と、化粧はしないで出掛けることにして、軽くサンダルを引っ掛けて、湊と2人、外に出た。
「うう、4月とはいえ、まだまだ寒いね」
「風邪引かないようにしなくちゃな」
まずはコンビニを目指して歩いて行く。夜目にも眩しいコンビニの明かりが見えて来る。我が家からコンビニへは5分くらいで着くので、あっという間だ。
自動ドアが開くとチャイムが鳴り、私たちは真っ直ぐ、お菓子コーナーへ行く。
「あ、3つ並んだ串団子はないな」
「もう大福とか饅頭にしちゃう?」
「なんかそれって、お花見というよりお月見っぽくなりそうだけど……ま、いいか」
湊はイチゴ大福を3つとコーヒー、私は黄身あん饅頭を1つとココアを選んで、レジへ向かう。会計を済ませて、いざ公園へ。
歩きながら、湊とたわいない話をする。
「学生の頃はイベントがある度に、集まってたよな。今度みんなで集まりたいな」
「そうだね。みんな元気してるかな?」
私と湊は同じ大学のサークルに入っていたので、その頃の友達は共通の友達だ。
「清花とか結婚して子供いるから、大変だろうね」
「この間写メ送ってもらったけど、子供大きくなってたよ」
「マジか、後で見せて」
「うん」
そんなたわいない話をしていたら、公園に着いた。
「おお、桜吹雪!」
「ねぇー、すごいわ」
さっそく近くにあるブランコに乗りながら、コンビニで買った物をそれぞれ口にする。
「綺麗だな」
「本当、ライトアップされてるみたい」
桜の下には死体が埋まっている、とかいうが、それぐらい妖しく優美な様を夜桜は表している。ひらりひらりと舞い落ちる花びらを見ながら、湊と軽くブランコを漕ぐ。
「なんか仕事ばっかりの毎日だからさ、たまにはこういう季節の移り変わりを楽しんでおかないと、1日1日がすぐ過ぎて、思い出とか残らなくなりそうだよね」
私がしみじみと言えば、
「そうだね、年中行事は色々あるんだし、ひとつひとつを楽しんで思い出残して行こう。で、後で振り返ってさ、あの時はああだったなって話したりして、老後の楽しみのひとつにさ」
と、湊が笑う。
「老後かぁ、どうなってるかな私たちは」
「多分、今と一緒で2人でこうしてのんびり過ごしてる気がする」
「そうだね、こーやって和菓子とか食べながらね、生きてるだろうね」
2人で和菓子とそれぞれ飲み物を口にしながら、桜吹雪を楽しむ。
「さて、食べ終わったし、帰りますか、湊くん」
「うん、帰ろっか」
「また来年も見に行こうね」
「その時は、みんなで集まってシート敷いてわいわいやりたいな」
「確かに。来年はみんなで集まろう」
湊と2人並んで歩きながら、家までの道を辿る。
来年もまた桜は綺麗に咲くだろう、私たちは来年の楽しみをひとつ作って、また明日の仕事を考える。
「明日も仕事、頑張りますか」
「おー!」
こうして年を重ねていくんだな、と考えながら、まだまだ寒い4月の夜を2人歩いて行った。
完