3月、ホワイトデー

 ホワイトデー当日、湊は朝から張り切って下ごしらえをしていた。

「帰ってきたらすぐに作れるようにしとかないとさ」

 お互いひとり暮らしは経験済みで、自炊をしていたので、湊も普通に料理が出来る。

「じゃあ行って来ます」

「うん、気を付けてね」

 湊は下ごしらえを終えて、パッと着替えて朝ごはんの菓子パン4個と大盛り卵ご飯と炭水化物カーニバルをして、家を出て行った。

 男子は、羨ましい。化粧する時間がいらないもの。まあ、今どきは化粧をする男子もいるけど。

「さ、私も支度して出ないと」

 ナチュラルメイクをして、バッグと玄関の鍵を持って夏希も家を出た。

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「いらっしゃいませー」

「あの、すみません。生姜ってどこにあるのかしら?」

「ご案内致します」

 お客様を案内して、また品出しに戻る。

 夏希の働くスーパーは、食品の品出しとレジ打ちが別々で、彼女はひたすら品出しをしながら、発注もしている。

「そろそろ、発注するかな」

 専用の機械を事務所から持ってきて、発注数を打ちこむ。

 新商品、どれ発注しようかな……あ、これとか美味しそう……。

 夏希のスーパーでは、ある程度自由に発注出来たりするので、夏希は気になる新商品は発注に混ぜたりして仕事帰りに買って帰ったりしていた。

 ん、こんな感じかな。

 発注を終えて、また品出しを始める夏希だった。

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 夏希が帰って来ると、既に家の外からいい匂いが漂ってきていた。

「ただいまー」

 ドアを開けて部屋に入り、リビングまで行くと、台所で湊が料理を作っていた。

「今日、早いね。残業なし?」

「うん、今日はホワイトデーだからお願いして、早く帰らせてもらった。夏希が腹ペコで待ってたら嫌だし」

「ありがとー」

 手を洗い、部屋着に着替えてから冷蔵庫を開ける。

「あ、大月屋のプリン。ありがとうねー」

「食後に食べるでしょ? もうすぐご飯、出来上がるから待ってて」

「あいよ」

 やがて、ご飯がリビングのテーブルに並べられる。

 ビーフシチューにポテトサラダ、コンソメスープ。

「あ、湊のポテトサラダ! 私好きなんだよねー」

「本当? それはよかった」

 2人でいただきますをして、料理を食べ始める。

「うーん、ポテトサラダ美味しい!」

 湊の作るポテトサラダは、シャキシャキのみじん切り玉ねぎが入ってて、またピリッと辛い味つけが大人のポテトサラダで美味しいのだ。

「このピリッとした辛さがいいんだよね」

「ああ、辛子ね。いいよね、このレシピ。俺も初めて食べた時感動したもん」

 次にビーフシチューも食べてみる。うん、こちらも美味しい!

「牛肉がホロホロに柔らかいね。朝の下ごしらえ、これやってたの?」

「うん、ポテトサラダの玉ねぎの辛み抜きと一緒にね。お肉が柔らかくなるように、つけといた」

 コンソメスープもちゃんとクルトンが浮かんでいて、カリカリしてて美味しい。

「湊、ありがとうね。全部美味しいよ」

「そっか、よかった。頑張った甲斐があった」

 褒められて、わんこみたいに喜ぶ湊が可愛い。そうだよね、湊は素直なんだよね。そうか、そこが可愛いのか。

 ひとり納得しながら、お代わりをしている湊に、ごちそうさまを言って、冷蔵庫のプリンを持ってくる。

「じゃあこっちもいただきます」

「うん、ハッピーホワイトデー!」

「あはは、ハッピーホワイトデー!」

 ああ、やっぱり大月屋のプリンはいい。口の中ですぐにとろけて、消えていっちゃう。

「湊、美味しいよ」

「4個買ったから、また明日食べるといいよ」

「うん、ありがとう」

 湊と2人、こうしてご飯を食べる時間が、愛しく思う。

 さあ、また明日も仕事頑張らなきゃ。

 プリンを味わいながら、明日の仕事を考える夏希。

 彼との未来のために、頑張っておかないとね。




 完

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