2月、バレンタインデー

「んー、どうしようかな」

 毎年恒例のバレンタインデーのチョコ。湊にあげるチョコはずっと、有名チョコ菓子の店の物をあげていたんだけど。

「今年は手作りチョコがいい」

 という彼のリクエストに応えて、手作りをする事となった。

「色々あるなー」

 スマホでチョコ菓子の作り方を調べていると、職場の休憩室でお昼を食べていた大津さんというパート仲間に声をかけられる。

「あら? 彼氏にバレンタインデーチョコを作るの?」

「ええ、まあ」

「江川さんとこって、同棲してるんでしょ? 結婚は? 子供はまだ作らないの?」

 ああ、きたきた……いつもの大津さんの返答に困る質問。

「いま23歳だっけ? もう歳なんてね、あっという間よ。早く子供作ってね、家庭を作った方が幸せよ」

「まだ、子供とか考えていなくて……」

 あはは……と、社交笑いを作ると、

「子供産むと、女は強くなるのよ。母は強し、ね。子供は可愛いわよ~江川さん可愛らしいからきっと、可愛い子供が産まれるわね」

「ありがとうございます……あはは」

 内心げんなりしながらも、乾いた笑いを響かせた。

 大津さんはいい人なんだけど、お節介でなにかと人に結婚を勧めてくるので、困っている。それ以外は本当、いい人なんだけど。

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 昼休み中に調べてみて、簡単なチョコカップケーキを作る事に決めた。湊は大食いだし、いっぱい作ってあげた方が、喜びそうだし。

「いらっしゃいませー」

 バックヤードから店に出て、品出しに行く。お菓子コーナーのスナック菓子の補充をしながら、もうあと2日に迫るバレンタインデーを夏希は考えていたのだった。


 そうして迎えたバレンタインデー前日。

「じゃあ作りますか」

「やったー楽しみー」

 2人とも朝から夕方まで働いており、当日だとバタバタするので、明日の朝に食べられるように前日の夜に作る事にした。

「なに作んの?」

「んー? チョコカップケーキだねー」

「何個出来そう?」

「あはははっ、気になるのそこなんだ。さすが湊くん。多分15個ぐらいかな?」

「やった! いっぱい食べられる!」

 湊は横で作っているのを見ながら、菓子パンを食べている。晩御飯を食べた筈なのだけど、またお腹が空いたらしく、メロンパンとデニッシュを食べていた。

「で、全部混ぜ終わったら、180度で焼く、と」

 予熱したオーブンに、カップケーキの型に流し込んだケーキたちを入れる。

 焼けるまでの間、湊に今日の大津さんの話をする。

「いい人なんだけど、ちょっとお節介なんだよねー。1回くらいならいいんだけど、毎回聞いてくるから正直、参ってる」

「大変だね。悪気がないんだろうけど、それは今、セクハラの類いに入るって、分からないんだろうねー。俺んとこの会社、コンプライアンスにうるさいから、そーゆー研修受けたよ」

「あ、そうなんだ。それはそれで大変だ。今、コンプライアンス、コンプライアンスって厳しくなったもんね」

 湊は工場務めで大勢の従業員を抱えているから、余計厳しいのかもしれない。

 そうこうしている内に、ケーキが焼けた。

「うん、上手く焼けてるね」

 竹串でひとつ刺してみて、生地がついてこなかったので、中まで火が通っている。いい感じ。

「よし、食べるぞー」

「え、今? 熱いよ、味わかんないよ?」

「出来たてがなんでも上手い!」

 湊は熱々のチョコカップケーキをひとつ取り、テーブルのイスに着いてから「あつ、あっつ、うまっ」と食べ出す。

「そんな美味しいの? 私も食べてみようかな?」

 ひとつ熱々のチョコカップケーキを取って席に着き、食べてみる。

「あふっ、あつ、全然味わかんないよ」

 湊はもう3つ目を食べていた。

「夏希、うまい。ありがとう」

「どういたしまして。1日早いけど、ハッピーバレンタインデーだね」

「うんっ!」

 嬉しそうにはふはふ食べる湊が可愛くて、夏希はこんな美味しそうに食べてくれるなら、毎年手作りにしようかな。と、そう思ったのだった。



 完



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