8月、ママが来た

「夏希ちゃん、久しぶりー」

「ママ、いらっしゃい」

 今年も8月の暑い中、私のママが我が家にお泊まりをしに来た。

「夏希ちゃん、元気だった? ママね、今年の夏はパパとビアガーデンに行ったのよー」

「いいね、ビアガーデン。あー、今日ビール買ってくれば良かったー」

「そう言うと思って、ビール買って来たわよー」

「本当? ありがとう。さ、上がって上がって」

「お邪魔しまーす」

 ママはいつまでも少女って感じがあり、ふわふわした所がある。それもこれも、若い時にパパと結婚してパパが世間からママを守ってきた証拠で、ママは苦労知らずの人だ。

「あら湊くん、今日から少しの間だけど、お邪魔しまーす」

「夏希ママ、いらっしゃい。うん、よろしくね」

「うふふ、湊くんは可愛いわねー。ママ、湊くんみたいな息子、欲しかったわー」

 私は3人姉妹の長女で、ママは昔から息子も欲しかったわーと、よく言っていた。

「じゃあじゃあ、さっそくビール飲みましょうー」

 ママは手を洗い、ビニール袋からビールを3人分出した。

「つまみ、つまみは……と、チーズでいいか」

 キャンディの包み紙のように色とりどりの一口チーズ。それをガサガサと適当なお皿に出して、リビングのテーブルに置く。

「じゃあ、乾杯」

「乾杯」

「乾杯」

 3人でビールをグビグビ飲みながら、一口チーズを食べる。

「今日は2人共いるのね。お仕事休みだったのー?」

「うん、そう。たまたまね、休みが重なってね」

「夏希ママが来るからちょうど良かったよな」

「うん」

「あらそうなのー」

 ママはビールを飲み終えて、既に2本目を開けている。少女みたいなふんわりした見た目に反して、ママは酒豪なのだ。うわばみであまり酔わない。私もママに似てお酒は強い方。ちなみに湊はお酒に弱くすぐ酔ってしまう。

「あなたたち、最近どうなのー?」

 ママと私は友達親子で、なんでもあけすけに話が出来るので、ママが来た時は友達が遊びに来た感覚だ。

「えー、いつも通りだよ。仕事してお金稼いでご飯食べてたまに遊んで。変わりないよ」

「うんうん、そんな感じ」

「相変わらずねー。あなたたちまだ若いんだから、もっと遊べばいいのにー」

「そんなね、パパみたいに稼げないから。2人で協力して老後に備えて貯金してきたいし、なによりこの平凡な毎日が楽しいから。だからいいの」

「お金が心配ならママたちが協力するのにー」

「大丈夫、大丈夫。ありがとうね」

 確かに23で私たちみたいに遊ばないのも、珍しいかも知れない。友人の美波なんかは、毎週合コンしてお金持ち捕まえるために努力したり、週2で外食、週3で他の友達と旅行行ったり遊んだりしてるもんな。

「そういえば、冬美は?」

「冬ちゃん? 元気よー。この間初彼氏が出来てもうラブラブよー。ママにも会わせてくれて、見たらイケメンなのよー」

「本当? 見たーい」

「今度写メ、送るわねー」

 三女で高校1年生の冬美は遊び盛りだ。バイトも始めたらしいから、稼いだお金で友達や彼氏と遊んでる事だろう。一番楽しい時期だ。

「春菜はこの間、2人目の子供を見せに来てくれたのよー。可愛かったわー」

「赤ちゃん、名前は季沙良ちゃんだっけ? 私も今度、見せてもらおう」

 春菜は次女で、昔からお嫁さんに憧れていたから早くに結婚して、もう2児の母だ。

「夏希ちゃん、お酒もっとある?」

「もちろん。ママが来るからお酒、買って置いたよ。待ってて、いま冷蔵庫から出すから」

 そうしてその日はママとお酒を飲み交わしながら、日々の些細な出来事を話して楽しいひとときを過ごした。

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