7月、夏祭り

「おー、結構賑わってるね」

「そうだね。あ、私、焼きそばとじゃがバタとカキ氷食べたい」

「んじゃ、買おうか」

 今日は2人とも仕事休みで、久しぶりに近所の神社でやっている夏祭りに来た。
 たくさんの出店が出ていて、夜の暗闇に明かりが灯り、人々がそれぞれ目当ての物を求めて歩く。

「カキ氷、どれにする? 俺はブルーハワイ」

「湊は昔から浮気せずにブルーハワイだよね。私はレモンと練乳でいつも悩むんだよねー。今日は、んー、じゃあレモンにしよっかな」

「おじさん、ブルーハワイとレモン下さい」

「あいよー」

 出店のおじさんが手早く氷を削り、ブルーハワイとレモンを作ってくれた。

「ありがとうございます。はい、夏希」

「ありがとう」

 シャクシャクとストローで掬って食べれば、冷たさとレモンの味が口に広がる。

「冷たい、でも美味しー」

「うん、やっぱりこの味だな」

「ブルーハワイって、結構舌がさ、真っ青になるよね」

「着色料すごいからなー」

 食べ歩きながら、次の店に向かって人混みをかき分ける。
 夏の夜空の下、浴衣を着たカップル、親子連れ、小学生や中学生の集団とすれ違って行く。

「じゃがバタ、たらこバター味だってさ。うまそうじゃない?」

「本当だ。それにしよ」

 そうして無事、じゃがバタと焼きそば、湊が食べたい肉の串焼き、お好み焼きも買って、近くの公園に寄る。
 みんな考えは同じで、既にベンチは席がなく、湊と2人ブランコの柵に腰かけて、食べる事にした。

「でも、久しぶりに来たらなんでもかんでも、高くなってたね」

「焼きそばなんか昔は400円位じゃなかったかな? さっき買ったら600円だし、びっくりだね」

「世の中物価高だからなー。世知辛い」

「本当、本当。焼きそばなんか紅ショウガとキャベツしか入ってないんだけど、でもたまに食べたくなる味なんだよね」

「そうそ。子供の頃なんか親のお金でさ、決められた額でしか買えなかったから、バイト始めた年は俺嬉しくて、夏祭りの店を全制覇したからね」

「全制覇! さすが大食いの湊くんだわ。笑えるー」

 夏祭りの思い出を話ながら、懐かしい味を食べてお腹を満たす。

「このあと、どうする?」

「あ、俺的当てやりたいかも」

「じゃあやってこ」

 途中見たら飲みたくなったラムネを買って、的当ての店に行く。

「弾は5発だからね」

 出店のおじさんが言う。

「あ、湊。あれ欲しいかも」

「ん? あのキーホルダー? よし、狙ってみよう」

 パン、パンとやるものの、元々器用ではない湊はものの見事に全ての弾を外した。

「ごめん、ダメだった」

「いいよ、いいよ」

 その後は金魚すくいやスーパーボールすくいなどを楽しんで、夏祭りを存分に満喫した。

「楽しかったね」

「うん。夏祭りはこの雰囲気がいいんだよな」

「確かに。夜なのに賑やかで明るくて、人がたくさんいて」

「また来年も来よう」

「そうだね」

 湊が私に手を差し出す。

「たまには恋人らしく、手でも繫がない?」

「あはは、いいね。手、繫いで帰ろっか」

 湊の温かい手を握り、ゆっくりと家までの道を歩いて行く。
 湊は私の歩くペースに合わせて歩いてくれる。

「来年は何食べようかなー」

「焼きトウモロコシとか、クレープとか綿アメとかも夏祭りらしい感じがするよな」

「あー、そうだね。じゃあ来年の楽しみにしておこーっと」

 来年も3年後も5年後もずっと、湊とこうして季節を楽しめたらいい。

 屋台の明かりが遠ざかるにつれ暗くなる夜道を、2人しっかりと手を繫いで帰って行った。



 完

 
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