人魚の歌声
ここは、血と硝煙が色濃く漂う犯罪都市、ルクドアーク。
人身売買、珍しいキメラのペットが買えるオークション、廃人になるまで帰れない魔法屋まで、ありとあらゆる欲望を満たせる店が並ぶ魔の楽園。
そんな妖しい街で、ある1人の少年が歩いていた。年の頃は15か16か。
肩までの髪は藍に染まり、勾玉の浮かぶ瞳に紫を彩らせ、思案の表情をしていた。
白地のシャツと茶色のパンツといったラフな格好には所々ファーを付け、勾玉のアクセサリーやフェザーを飾り、耳にはピアス、首にはチョーカーを巻き、洒落た様子。
その少年に声を掛ける者がいた。
「よぉ、キラレイ!」
キラレイと呼ばれた少年は振り向き、相手を確認した。
そこに立っていたのは、黒い毛並みの豹頭の男だった。彼は、黒い皮のコートをすらりと着こなし、黒いパンツ、黒いブーツと全身黒ずくめであり、闇夜に簡単に溶け込んでしまいそうな格好。
「……バギーラか。また飲みに行っていたのか?」
「まあな。仲間とそこの宿屋でな」
バギーラと呼ばれた豹頭の男は、人懐っこい笑顔を見せて、少年キラレイに話す。
「……飲み過ぎてまた仲間に置いてけぼりにされたんだな。獣頭族の長が聞いて呆れる」
「おいおい、長は言い過ぎだぜ。ただのリーダーだ」
豪快に笑いながら、キラレイと並び市場を歩いて行く。彼らが歩いている間も際限なく、売り買いする者たちの声が飛び交う。
「今日、獲れたての人魚の肉だよ。うちの店は本物さ。呪いは抜いてあるよ~安いよ~」
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。本日のオークションの目玉、つがいのヒュドラだよ」
「そこのお兄さんたち、摩訶不思議な魔法は如何かな? 夢心地で二度とこちらには戻りたくなくなる代物だ」
ある店は屋根付きの簡易なお店で、ある店は地面にシートを敷いてそこに品物を置いて、それぞれが商品を売るために大声を張り上げていた。
キラレイたちにとっては当たり前の日常で、これこそがルクドアークといった所だ。
「で? 今日はどうしたんだ? お前が神妙な顔をして歩いているからよ、なんか悩みでもあんのかと思ったんだが」
キラレイを見下ろしながら、バギーラは尋ねる。
「なんでもない。ただ、そういう顔なだけだ」
「ならいいんだけどよ。お前なんでも抱え込む癖あるから、心配なんだよなあ」
ぽんぽんとキラレイの頭を撫で、酒臭い息を吐く。
「なんかあったら絶対言えよ? 必ず力になるからよ」
バギーラの顔が真剣なものに変わり、キラレイは、
「ああ。頼りにしている」
目を瞑り、微笑んだ。
キラレイたちが話をしていると、なにやら向こうの方で騒がしい声が聞こえた。
「おっ、ケンカか? ちょっとキラレイ、見て行こーぜ」
「おい、バギーラ!……全くあいつは」
キラレイが止める間もなく、いそいそとバギーラは、声のする路地裏に向かって行った。
人身売買、珍しいキメラのペットが買えるオークション、廃人になるまで帰れない魔法屋まで、ありとあらゆる欲望を満たせる店が並ぶ魔の楽園。
そんな妖しい街で、ある1人の少年が歩いていた。年の頃は15か16か。
肩までの髪は藍に染まり、勾玉の浮かぶ瞳に紫を彩らせ、思案の表情をしていた。
白地のシャツと茶色のパンツといったラフな格好には所々ファーを付け、勾玉のアクセサリーやフェザーを飾り、耳にはピアス、首にはチョーカーを巻き、洒落た様子。
その少年に声を掛ける者がいた。
「よぉ、キラレイ!」
キラレイと呼ばれた少年は振り向き、相手を確認した。
そこに立っていたのは、黒い毛並みの豹頭の男だった。彼は、黒い皮のコートをすらりと着こなし、黒いパンツ、黒いブーツと全身黒ずくめであり、闇夜に簡単に溶け込んでしまいそうな格好。
「……バギーラか。また飲みに行っていたのか?」
「まあな。仲間とそこの宿屋でな」
バギーラと呼ばれた豹頭の男は、人懐っこい笑顔を見せて、少年キラレイに話す。
「……飲み過ぎてまた仲間に置いてけぼりにされたんだな。獣頭族の長が聞いて呆れる」
「おいおい、長は言い過ぎだぜ。ただのリーダーだ」
豪快に笑いながら、キラレイと並び市場を歩いて行く。彼らが歩いている間も際限なく、売り買いする者たちの声が飛び交う。
「今日、獲れたての人魚の肉だよ。うちの店は本物さ。呪いは抜いてあるよ~安いよ~」
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。本日のオークションの目玉、つがいのヒュドラだよ」
「そこのお兄さんたち、摩訶不思議な魔法は如何かな? 夢心地で二度とこちらには戻りたくなくなる代物だ」
ある店は屋根付きの簡易なお店で、ある店は地面にシートを敷いてそこに品物を置いて、それぞれが商品を売るために大声を張り上げていた。
キラレイたちにとっては当たり前の日常で、これこそがルクドアークといった所だ。
「で? 今日はどうしたんだ? お前が神妙な顔をして歩いているからよ、なんか悩みでもあんのかと思ったんだが」
キラレイを見下ろしながら、バギーラは尋ねる。
「なんでもない。ただ、そういう顔なだけだ」
「ならいいんだけどよ。お前なんでも抱え込む癖あるから、心配なんだよなあ」
ぽんぽんとキラレイの頭を撫で、酒臭い息を吐く。
「なんかあったら絶対言えよ? 必ず力になるからよ」
バギーラの顔が真剣なものに変わり、キラレイは、
「ああ。頼りにしている」
目を瞑り、微笑んだ。
キラレイたちが話をしていると、なにやら向こうの方で騒がしい声が聞こえた。
「おっ、ケンカか? ちょっとキラレイ、見て行こーぜ」
「おい、バギーラ!……全くあいつは」
キラレイが止める間もなく、いそいそとバギーラは、声のする路地裏に向かって行った。