少年キラレイ

 長い廊下を2人並んで歩いて行く。

「びっくりしましたか? 人形を愛する老人に」

「……」

 言葉を発する気配のないキラレイに、エイダーはそのまま続ける。

 雨は先程よりも、弱まってきたようだ。

「聞いてますか、キラレイ君。あの老人はね、人形を本気で愛して妻にした男なのだよ!!」

 急に丁寧な言葉遣いは打って変わり、随分と調子を変えてエイダーは喋り出す。

「……いつもの口調に戻ったな」

「いやいや、畏まった物言いは疲れるね! 普段の話し方が一番さっ! 構わないだろう?」

「……」

 キラレイの無愛想な表情を全く持って気にせず、エイダーは1人で話し続けた。

「で、そうそう。その人形を愛してしまった老人は、一緒に愛でてシェアしていた男から、無理やりに奪い取ったのだよ。その際に人形の左手首が外れ、それが欲しくて今回依頼したんだとさ」

 エイダーという執事は、饒舌なお喋り好きだったようだ。次々と真相を明かしていく。

「2人で共有していたのにね。人形を妻に迎えた哀れな老人は、愛するあまり、今では人形の声が聞こえてくるそうだよっ! 全く、頭のおかしな連中は怖いねっ!」

「依頼人の趣味に興味はない」

「そうなのかい? 感嘆の声を出していたから、てっきり興味有りだと思い込んでいたのだが」

 1人でひたすら話すエイダーを無視し、キラレイは足早に廊下を進む。




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