少年キラレイ

「早速、中を確認させて頂くとするよ」

 中の依頼品に期待をしながら、アルザックはケースを開ける。

「ああ、やっと。やっと逢えたね……!」

 感極まり震えた声をため息と共に出しながら、依頼品を取り出す。

 壊れないように、そっと優しく持ち上げた老人の両手に収まるは、美しい女のなまめかしい手首。

 全く動じずにただ淡々と、老人が手首に頬擦りするのを見守るキラレイとエイダー。

「これはね、最愛の妻の手首なんですよ」

 アルザックは、愛おしそうに手首を撫でながら、依頼品について語り始める。

「妻はね、私ともう1人の男で一緒に愛でていたんだが、その男は自分の理想像を彼女に押し付けて、まるで物のように妻を扱う男だったんだ」

 見えない思い出の景色を頭に描くように、アルザックは天井を見上げた。

「この手首は、妻をその男から連れ出す時に、切り落とされた物。妻はあまりの痛さに泣いてしまってね」

 だから、その男から妻の手首を取り返すべく、今回依頼したのだ……。

 そう涙ながらに語る、依頼人のアルザック。

「普段、人が来る時は妻を誰の瞳にも触れさせたくなくてね、隠しているんだが……」

 特別にお見せしよう。

 老人は腰の後ろで腕を組み、しずしずと歩き出し、あのシーツがかけられている前で、足を止めた。

 雨がより一層激しく、雨音を窓に打ち鳴らす。

「愛しい人よ、君の手首を取り戻してくれたよ」

 真っ白なシーツが老人に引かれて、幾何学きかがく模様の絨毯の上に落ちた。

 そこに存在していたものは、薄暗い部屋の中でも一際に輝く見目麗しい、だが少し影のある女性。

……いや、とても精巧に出来てはいたが、よく見ればそれは……人間、それ以上に美しいそれは……



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