少年キラレイ

 男は一呼吸を置いて、ノックをする。軽やかな音が屋敷内に響く。

「アルザック様。お待ちかねのキラレイが来ましたよ」

 部屋の中の主に話しかける。

「おお、そうか。入りたまえ」

 主の許可を取り、執事の男は扉を開ける。ゆっくりと音を立てずに。

 開かれた先の部屋の景色もまた真っ暗闇であり、男に続いて入るキラレイは、素早く左右に視線を走らせて、中の様子を確認した。なにやらシーツをかけられているモノが沢山あるようだ。まるで物置小屋のようにごちゃごちゃと、並べられている。

 その部屋の片隅、明かり取りのための窓ガラスを見つめ立っている老人が1人。

 横顔からは表情は読み取れないが、どうやらパイプを咥え物思いに耽っているようだ。

「こんな辺鄙な山奥に、よく来てくれたね。感謝するよ」

 くるりとこちらに身体を向けた老人が、キラレイを労る。窓の明かりから分かる老人の姿は、白髪の揉み上げから顎まで繋がった髭を蓄えており、パイプがよく似合う。眼鏡の奥で笑う瞳も柔和で優しい。

「お気遣いなく。仕事ですから」

 執事の男と話す時とは打って変わり、言葉遣いを正して答えるキラレイ。

 2人のやり取りを黙って見守る執事の男。

「外は雨が凄いだろう。そんなにずぶ濡れだと風邪を引く。エイダー、何か身体を拭く物を差し上げなさい」

「いえ、さきほどタオルを貸して頂きましたので、結構です」

 エイダーと呼ばれた執事の男が動く前に、キラレイは制止の言葉を述べる。

「仕事は速やかに済ませたいので。今回の依頼の品は、こちらに」

「そうかね。君がそう言うならいいが」

 依頼人のアルザックの元へ歩を進め、キラレイは片手に提げていたアタッシュケースを持ち上げてみせる。

「おお、おお! この中に……!」

 サイドテーブルにそっと置かれたアタッシュケースを見つめ、アルザックはケースに触れる。



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