少年キラレイ

ゴゴゴオォ……といった重厚な音を立て、屋敷の扉は閉まった。外界と遮断するように、もう後戻りは出来ない雰囲気だ。

「外の雨に随分と濡れたようで。こちらのタオルをどうぞお使い下さい」

 キラレイに丁寧な所作で、上質なタオルを渡す。

 無言で受け取り、頭を一通りタオルで拭いたキラレイは、すぐにタオルを返す。

 タオルを受け取り腕に下げて、

「では、ご案内します」

 執事の男は静かに軽くお辞儀をし、歩き出した。

 広い屋敷内の電気は点いておらず薄暗がりで、常に闇夜から何者かが息を潜めているかのような、こちらを圧迫し、実に閉塞感をもたらす空気を醸し出している。

 だが暗がりとて、少年ことキラレイにはよく見えていた。

 大広間の中央から伸びる赤いカーペットの敷かれた階段を一段、また一段と上っていく。

「……」

 赤いカーペットに混じるあれは……まあ彼にとってさほど気にする事ではないのだろう。視認し終えるとすぐに、目線を戻したのだから。



 階段を上りきり、続いて右へと歩みを進める。

 お互い踏み外す事なく階段を上りきったのだから、屋敷の暗さは2人とも、関係がないようだ。

 長い廊下を進んでいると、左側のずらりと並んだ大きな窓ガラスに、大粒の雨が叩きつけるように降っている。雨に感情があるならば、まるで叫んでいるかのように。これから起こる事を知らせているのかもしれない。

「着きました、こちらです。主人が今か今かとお待ちですよ」

 ずっと続くかと思われた長い廊下、ついに目的の部屋に辿り着いたようだ。

「最後に確認しますが、約束のモノはちゃんとそちらのケースにありますね?」

 男がキラレイの手から提げているケースを見ながら、確認を取る。

「……俺を誰だと思っている?」

「失礼。キラレイ君は依頼をちゃんとこなせる方ですが、念のため。念のためですよ。ご気分を悪くされないよう願います」

 じろりと男を流し見たキラレイ。男は悪びれもせず、全く感情の籠もっていない謝罪を述べる。


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