人魚の歌声

「やめて下さい、放して!」

 路地裏に入れば、叫び声をあげている女性を数人の男たちが取り囲んでいた。

「別にいいだろ?」

「ちょっとオレらと遊んで欲しいだけだよ」

 女性は首を振り、頑なに男たちを拒んでいる。

「お決まりのパターンだなぁ。よし、助けに行くかっ」

 酔いの回っているバギーラが、堂々と真っ正面から進んで行った。

「相変わらずのお人好しだな……」

 キラレイは呆れながらも、バギーラの後をついて行く。

「なんだてめぇーら……がはっ!!」

 1人の男が話し終える前に、バギーラが腹に蹴りを入れる。倒れた男を横目で見つつ、キラレイはため息を吐いた。

「話も聞かないで……女の方に非があったら、どうするんだ」

「大丈夫、大丈夫。この場合は、奴らに非がある」

 根拠なき自信でバギーラは笑い、「この野郎っ!!」と怒声をあげながら向かって来る男たちを相手取る。

 しかし、その中の男の1人が、キラレイに気付く。

「おい、アイツってマーメイドハートのキラレイじゃねーか?」

 その声に他の仲間たちもキラレイの方を見て、お互い視線を合わせる。

 そしてニヤニヤと笑い出し、

「お前、キラレイだろっ! こんな所で会えるなんてついてるぜ! お前の心臓をよこせっ!!」

 と、バギーラに向かっていたのが、キラレイに向き直って突進してくる。

「『よこせ』と言われて渡す馬鹿がどこにいる」

 向かって来る輩にキラレイは冷静に、時空を切り裂き異空間から武器を取り出して、あっという間に倒した。


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「くそっ、覚えてろよっ!」

 お決まりのセリフを吐いて、男たちは身体を庇いながら逃げて行った。

「呆気なかったなぁ」

 キラレイたちは武器を異空間にしまい込んで、戦闘態勢を解く。

「けどよ、まだお前の心臓を狙う奴らがいるんだなぁ」

「一応、賞金首だからな俺は。それに生きた人魚の心臓は、珍しいからな。市場にも売ってはいないだろう」

 2人が話していると、さっきの女性が近づいて来た。

「あの……危ない所を助けて下さり、ありがとうございます」

 おずおずと、女性が顔を上げ、キラレイに向き直る。

「さっきの……聞こえてしまったんですが、マーメイドハートを持っているとは、本当なんですか?」

 自分よりも年下の少年に対し、丁寧な口調で語り掛けるのは、幼さを残した見た目に反して、彼が落ち着いているからだろう。

 女性の言葉にキラレイは淡々と答えた。

「ああそうだ」

 キラレイが認めると「まあ、そうなんですか!?」と、女性は声を張り上げた。キラレイが訝しんでいると、すぐに女性は謝る。

「すみません、声をあげてしまって。人魚と関わりがある方と出会うなんて……あの」

 女性が話を切り出そうとする前に、バギーラは割り込んだ。

「話が長引きそうだな。さっきオレがいた宿屋で話の続きをしよう」

 そう提案した。


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