朽ちない日記~あたしの初恋と2ヶ月間~

「……なにか物で欲しいのないの? ここにある物で」

 お兄さんはそう言うけど、ここにはさっきのツリー以外、小物やぬいぐるみがなく、食器とかテレビとか、そういう物しかない。

 あたしは、ひと通り見て

「ない」

 と、言った。

「じゃ、プレゼントなし」

「そんなのやだっ」

「だって、ないんでしょ?」

「うっ……だって、ここには……どこにでもあるような物ばっかりだもん。それに、もしぬいぐるみとかもらっても、あたし、お兄さんのカオ、わすれちゃうもん……大きくなっても、お兄さんのカオを思い出せる物がいい」

「ふうー……僕の顔が思い出せる物か……」

 そう言って、何か思い立ったように、お兄さんはべつのへやに、入っていくので、あたしもついていった。どうやら、物置べやみたいで、ダンボールがいくつもあった。

 お兄さんは、その中のひとつを開けて、中に入っていた、ぶあつい本を取り出した。それをもって、お姉さんのいるとこにもどる。

 お兄さんがお姉さんのとなりにすわったので、あたしはお兄さんのとなりにすわる。パラパラと、お兄さんが本をめくる。

「しゃしん?」

「そう。これなら思い出せるでしょ」

「うんっ!」

 お兄さんがアルバムをめくる。

「あっ、お兄さんとお姉さんだっ! わかいっ!」

「……そりゃね、高校3年の頃だから」

「……お姉さん、ちゃんと目を開けて、自分で立ってるね」

「……そうだね」

「それに、やっぱりキレイ……」

「僕の燦だからね」

 そう言うと、お兄さんはうれしそうに、わらった。

「でも、燦との写真はあげないよ」

「わかってるよ」

 お兄さんがめくっていくと、おいしゃさんすがたの、お兄さんがいた。

「おいしゃさんのかっこうしてるっ! お兄さん、おいしゃさんなの?」

「……さあね。忘れたよ」

「わぁー、カッコイイなぁ」

 あたしがそう言うと、

「じゃあ、このあたりの写真にする? どれでも構わないよ……僕にとっていらない記憶だから」

「ほんとーっ!! じゃあね、えっと……」

 いろいろまよったけど、

「これ!」

 あたしはお兄さんが、ふわふわあたまのお兄さんと写ってるのにした。

「これ、ね……あの男といる写真か……」

 お兄さんはむずかしいカオをしてから、

「いいよ」

 と、言ってアルバムから写真をはがして、あたしにくれた。

「やったぁー!! ありがとう、お兄さんっ!!」

「……じゃあ、そろそろケーキ持って、家に帰るといいよ」

「うん」

 ほんとはもっといたいけど、これ以上長くいると、お兄さんめいわくかもしれない。そう思って、かえることにした。

「あの、お兄さん」

「なに?」

「さいごに、お姉さんにもあいさつ、していい?」

「……いいよ」

 あいかわらず、ソファーによりかかって、ななめになってるお姉さんに、あたしはあいさつした。

「お姉さん、いつかきっと目をさまして、お兄さんをえがおで、いっぱいにしてあげてね。お兄さんとずっと、しあわせでいてね」

 それからお兄さんの方を見て、

「お兄さん、いっぱいなかよくしてくれて、ありがとう。あたし、うれしかったよ。お姉さんとずっとしあわせにね」

 そう言ったら、あたまをなでてくれた。

「ありがとう……燦にもきっと、太陽の言葉が届いているよ」

 もう、これでほんとに、おわかれなんだ……。

 あたしはまたなきながら、ケーキとしゃしんをもって、お兄さんとバイバイした。さよなら、お兄さん。

 その夜、もってかえったケーキのことを、またお母さんにガミガミ言われたけど、どうでもよかった。



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