朽ちない日記~あたしの初恋と2ヶ月間~

 ……なつかしいーお兄さんの家だー。中に入ったとたん、そう思った。

 あ、ちゃんとちっちゃなツリーがかざってある。

 いつもお兄さんの家でしてたように、しっかりきれいに手を洗う(じゃないと、お兄さんうるさくって)。

 お姉さんをソファーにすわらせて(すぐ、ななめになったけど)お兄さんはケーキを持ってきて、ナイフで切っていく。

「はい」

 お兄さんは、おさらにケーキをのせて、あたしにサンタの人形がのったチョコレートケーキを、わたしてくれた。

「わあーありがとう!」

 そして、お姉さんの分も切っておさらにのせ、テーブルにおいた。

「食べていいよ」

 お兄さんが言ったので、いただきますをして食べた。

「おいしーい!」

「たくさん食べるといいよ。残ったら家に持って帰るといい。……僕は食べないし、燦も一切れで十分だからね」

 すごい、すごい! いつもクリスマスケーキは、1こしか買ってもらえなかったのに、今年はいっぱい食べられるんだ!

 あたしがニコニコ食べていたら、お兄さんがやさしいカオをしてしゃべる。

「……君は色々、手伝ってくれたし、最後にお礼をしておこうと思ってね」

「さいご……?」

「明日の朝早くに、引っ越すんだ」

「そんなっ、どうして!」

「……口の周り、チョコついてるよ」

 お兄さんがティッシュをくれる。あたしはそれで、口をふいた。

「父親にこの場所が見つかってしまってね。本当、急だけど」

 なんでお父さんに見つかったら、ひっこししなきゃならないのか、あたしにはちっともわからなかった。

「もうあえないの?」

「たぶんね」

 またお兄さんとなかよく、できると思ったのに……また買い物したり、あそびに行ったりするつもりだったのに……。

 あたしはケーキをたべる手をとめて、ないた。

「泣いたらせっかくのケーキが、まずくなるよ……」

お兄さんが、ティッシュ箱をあたしにさしだす。

「お兄さんがそんなこと、言うからじゃんっ……」

 ティッシュでなみだをふきながら言う。

 ほんとだよっ……せっかくおいしいケーキたべてるのに……今日はクリスマスイブで、ケーキとごちそうたべて、サンタさんにプレゼントもらえる、うれしい日なのに……プレゼントもらえる日……プレゼント……。

「お兄さん」

「なに?」

「プレゼントちょうだい」

「……なんで?」

「今日はクリスマスイブだよっ。ケーキとごちそうたべて、プレゼントもらえる日なんだよっ」

「ケーキ、食べたでしょ?」

「プレゼントもらえなきゃ、やだっ!」

「……わがままだな」

「もしくれなかったらあたし、ずっとここにいるもんっ」

「……そしたら、君のお母さんに来てもらうよ」

「いいよ。そんなことしたらあたし、お姉さんにだきついてはなれないもんっ」

「……そんなことしたら、殴るよ?」

 お兄さんは少しカオをしかめて言い、あたしはとうとう、わあわあなきだした。

 ハアーという、お兄さんのふかいため息がきこえたけど、あたしはかまわずなきつづけた。すると、お兄さんがきいてきた。

「なにが欲しいの?」

あたしはしゃっくりをあげながら、こう言った。

「お兄さん」

 お兄さんはしばらく、ポカーンと口を開けた。

「なに? 意味がわからないんだけど」

「だって、お兄さんがぁ、プレゼントだったらぁ、あたしとずっとぉ、いてくれるじゃんっ」

「ああ、そういうこと……その願いは却下」

「じゃあお姉さん(そしたらぜったい、お兄さんそばにいると思うし)」

「絶対、あげない」

 お兄さんがすごく強く言った。


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