朽ちない日記~あたしの初恋と2ヶ月間~

 それから毎日、お兄さんの家に行ったり、買い物について行ったりした。

 そのたびにお兄さんは、

「……今日は何の用?」

 とかきくから

「お姉さんにあいにきたの」

 とか、

「何かお手伝いしにきたよ」

 と言った。

 そしていつも「邪魔だよ」とか言うけど、べつにおいはらったりはしない。なのであたしは、お兄さんのことばを気にせず、ついてまわった。

 買い物の時、お兄さんはお姉さんの車いすをおしながらするので、あたしが買い物カゴをもって、お兄さんが言った物を入れていく。

 お会計の時「燦に触るなよ」そう言ってあたしに、お姉さんをあずけてレジにならぶお兄さん。すごく気になるみたいで、チラチラ何回もお兄さんがこちらを見るから、大丈夫だよ。と、手をふった。

 あーあ、小銭落としてるし……。よそ見するからだよ。

 かえる時、まわりのおとなたちがコソコソと「また来てるわよ、あの人」「大変だわねー」と、いろいろ言った。お兄さんはハアとため息をついて、「うるさい」とつぶやいた。

 お兄さんの家に行った時は、いつも少し開いてるベランダのドアから、

「お兄さん、あそびにきたよー」

 と、言って入る。すると、お兄さんがくる。

「不法侵入罪だよ」

「ふほうしんにゅうざい?」

「……人の家に勝手に入ったら、牢屋に入れられるんだよ」

「だ、大丈夫だよ。あたし、まだ子供だもん。ろうやに入れられたりしないもん」

「じゃあ、警察に電話するから」

「えっ、ちょっとまってー!」

 もちろん、受話器をとるだけで、でんわしたりしないけど。


 ある日、学校が早くおわったあたしは、ランドセルをしょったまま、お兄さんの家に行った。

「ちょっとお兄さん、おどろかせてみようかな」

 そう思って、いつものベランダからコッソリしのび足で入る。(きっとびっくりするだろうな)そう考えながら、へやの中を歩いて行くと「燦、燦っ」というお兄さんのこえがした。

 近づいてみると、お兄さんのこえとともに、肌がぶつかる音がしてきた。

(何してるんだろ……)

 そっとへやのドアを開けてみた。すると、お兄さんとお姉さんが見えた。ふとんの中でお兄さんがお姉さんの上に、のって動いてた。

「んっ、燦……愛してる」

 お姉さんは目をつぶったまま、お兄さんとともに動いてる。お兄さんはカオを赤くしながら、ずっとしゃべってる。

「ああ、燦……もっと君を、感じたい」

 あたしは見ちゃいけないモノを見てしまった気がして、そっとベランダから自分の家にかえった。


 つぎの日。

「太陽」

 と、お兄さんにこえをかけられた。

「太陽じゃなくて、陽だってば」

 いっつもお兄さんは、あたしの名前をわざとまちがえる。 

「君、昨日は珍しく来なかったね」

「う、うん。ちょっと、しゅくだいが大変で……」

 あのあと、あたしはあのことが頭からはなれなくて、お兄さんの家に行かなかった。

「ねえ」

「えっ、なに?」

「今度の……」

 お兄さんが何か言いかけた時、

「陽っ!」

 お母さんのこえがした。

「こっち来なさい!」

 お母さんがあたしの手を、ひっぱる。

「いたいよ、お母さんっ!」

 そう言っても、はなしてくれなかった。

「あ、九堂さん。どうもいつも娘が迷惑をかけて、すみません」

「……いえ」

「ほら、あんたも」

 そう言って、お母さんはあたしの頭を、ムリヤリ下げさせた。

「何回も言い聞かせてるんですよ。迷惑になるからやめなさいって。けどこの子、ちっとも言うこと聞かなくって。ですから、娘が来ても取り合わないようにして欲しいんですよ」

「ちょ、お母さんっ!」

「……はい、わかりました」

「えっ、お兄さんっ!」

 なんでそんなこと、言うの?

「さ、陽。家に帰るわよ」

「やだっ、手はなしてよっ」

 あたしはズルズルとお母さんに、ひっぱられていった。

 やだよ、せっかくお兄さんとなかよくなれたのにっ……!



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