朽ちない日記~あたしの初恋と2ヶ月間~

「あれだけ言い聞かせたのに、あんたって子は!」

 お母さんにガミガミとおこられた。きっと近所のおばさんたちが、あたしがお兄さんとあってること、お母さんにつげぐちしたんだ。

 じゃなきゃ、夜おそくまで仕事してるお母さんが、お兄さんとあってること知るはずないもん。

……なんで、おとなはお兄さんをわるく言うんだろ……たしかにブスッとしてるけど、わるい人じゃないのに。

 お母さんにおこられても、あたしはお兄さんに話しかけるのを、やめなかった。べつに、おこられたってへいきだもん。



 そんなある日……。

「ねぇ、そこの君……」

 はじめてお兄さんに、声をかけられた。

「あっ、お兄さんっ!」

「はい、これ」

 お兄さんがくれたのは、箱に入ったクッキーだった。

「ちゃんと渡したよ。もう、つきまとわないでね」

「あっ……」

 お兄さんはスタスタ歩いて行った。……お兄さんとあう、りゆう……なくなっちゃった。……もう、話しかけられない。

 夜、テレビをみながら、お兄さんからもらったクッキーを食べていたら、お母さんがかえってきた。

「まだ、起きていたの? もー、こんな時間にクッキーなんて食べて。このクッキー、どうしたの?」

「お兄さんからもらった」

 正直に言ったら、

「また、逢っていたのっ! あーもう、この子は! お菓子なんてもらって……あーもう開けてあるから、返すわけにはいかないし……今度、何かお返しに行かなきゃ……」

「おかえし?」

「あんたが食べるから、返すわけにはいかなくなったのよ。あーもう、嫌だわ……」

 そうだ、おかえし!

「お母さん、そのおかえし、あたしがわたしてくるよっ!」

「またあんたはっ! お母さんが行くから、陽はもう2度と逢っちゃだめよっ!」

 よかった、これでまたお兄さんにあえる!



 つぎの日、学校からかえってから家にあったチョコレートを持って、お兄さんの家に行った。

 玄関のチャイムを鳴らすと

「……もうつきまとわないんじゃなかったの?」

 と、ふきげんそうにお兄さんは言った。

「おかえし。きのうのクッキーもらったおかえしに、きたのっ!」

「いらない。じゃあね」

 ドアを閉めようとするお兄さんに、

「お母さんに、おかえしするようにって、たのまれたのっ!」

「……僕はお菓子、食べないから」

「えっ、あ、んと、お姉さんにあげるのっ!」

 そう言ったら、

「燦に?」

「う、うん!」

「そう……」

 お兄さんは、ほんの少しわらった。

 バタンとドアが閉まった。あー……閉められちゃった……もう、これでホントに話しかけるりゆう、なくなっちゃったよ……。

 そう思っていたら、カチャカチャというチェーンのはずす音がきこえた。

 ドアが開き、お兄さんはとびらを大きく開けてくれた。

「入って」

「え?」

「……さんに渡しに来たんでしょ?」

「う、うん」

 お兄さんは家の中に入れてくれた。

「ちゃんと手、洗ってね」

 お兄さんに言われたとおり、きれいに手を洗う。

「燦、君にお客さんだよ」

 お兄さんにあんないしてもらっていくと、お姉さんがソファーで体をななめにして、すわってた。

「燦にお菓子、持って来てくれたんだって。……ほら、渡して」

 お兄さんに言われて「えっと、どうぞ」と、あたしはお姉さんに差し出す。
けれど、目をつぶったまま、お姉さんは何も言わず動かないので、ひざの上にチョコレートを置いた。

「よかったね、燦。君の好きなチョコレートだよ」

 お兄さんが話しかけても、お姉さんはちっともしゃべらない。それでもお兄さんは、少しニコニコしながら、話しかけててうれしそう。

「もう、用は済んだね。じゃあ、帰……」

 あたしの方を見ながら、お兄さんが止まった。

「お兄さん?」

「……大きな太陽」

「えっ?」

「君の名前……」

 あたしの名前? お兄さんの見てる方を見ると、あたしのつけてる学校のなふだを、見てたみたい。

「あ、あたしの名前は大太陽だよっ? 前にも言ったじゃん」

「燦と太陽か……」

 あたしの話をきかないで、お兄さんはそう言って少し笑った。

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