第1話 アロマ喫茶せせらぎ

「はい、雫さんのリクエスト、チーズインハンバーグとエビフライ、マッシュポテトにアボカドサラダ、アイスミルクティーとデザートの苺のババロアですよ」

 豪華な昼食が、雫の前に出された。

「いただきまーす」

 雫は柏木お手製のランチを、美味しく頂いた。

「けど、柏木さんって本当に料理が上手ですよね。どれも美味しいです」

「それはありがとうございます」

 雫の言葉に、柏木がお礼を言う。美味しく食べる彼女を優しく見つめながら、柏木は話す。

「私の母は早くに亡くなりましてね、祖父と父の男暮らしでしたので、自然と料理は身につきました」

「……すみません、私、悪いこと聞いたみたいで」

 柏木の話に雫は、申し訳なさそうに謝る。

「いえ、構いません。過ぎたことです。それにいまは、喫茶店の方は再開出来ていませんが、雫さんが私の料理を美味しく食べて下さるので、嬉しい限りです」

 柏木はそう言葉を重ねた。
 本来なら雑貨店と喫茶店の両方の店を開けたい柏木だが、人手不足の現状では雑貨店の方しか開けられない。

 本当なら沢山のお客さんに、料理を食べさせたいんだろうな……。

 雫はもぐもぐしながら、柏木の優しい表情を見つめた。

「午後もがんばりましょうね」

 そう柏木に言われ、雫は元気に「はいっ」と返事をして彼の力になるべく、午後もがんばることを誓った。


 午後もお客さんの入り方はすごかった。だが4日目にして雫は接客が板について、商品の説明から使い方、また少しではあるが柏木に教えてもらって、毎日来る常連さんの顔とよく頼む『いつもの』を覚えるようになっていた。

 アロマ、サプリメント、石鹸、化粧品、お酒。

 ありとあらゆる物が揃ったアロマ喫茶せせらぎは、沢山のお客さんの笑顔でいっぱいだった。

 接客業をしてきた雫にとって、それは嬉しいことであった。



 夜も更けて、お客さんがいなくなった閉店時間残り30分。

 いつものように、柏木は会計の締めを、雫は掃除をしていた。

「そうだ、雫さん。貴女に渡したい物があったのですよ」

 そう柏木に話を切り出しされて、雫は頭を上げる。

「どうぞ、これを」

 柏木の傍にいき、彼が差し出した袋を受け取る。

「開けてもいいですか?」

「ええ、構いません」

 ピンクのラッピングを開けると、どうやらサプリメントみたいだった。

「睡眠向上サプリ、永遠に眠れ?」

永遠とわに眠れ、です。新作のサプリメントです」

「永遠に眠ったら怖いじゃないですかっ!」

 雫が突っ込みを入れるも、柏木はクスクス笑うばかり。

「雫さんは夢を見るようなので、よく眠れないのかと思いまして」

「そうなんですよー。身体は疲れているのに、寝付きは悪くって」

 どうやら柏木は、雫が夢の話をしたので、睡眠時間が少ないことを心配してくれたらしい。

「ありがとうございます。今日、さっそく試してみますっ」

「永遠に起きられないかもしれませんよ?」

「そんな怖いこと、言わないで下さいよっ」

 なんだろう……昨日の怖い話以来、柏木はこうして雫をからかうようになっていた。今日の開店前や昼食の時も、少しからかわれたりして楽しく過ごした。

 なんだか、柏木と距離が縮まったみたいで、雫は嬉しく思った。



「それじゃあ、帰ります」

「明日、明後日はお休みですね。ゆっくりと疲れをとって下さい。夜道にお気をつけて」

 柏木とさよならをして雫は、自宅へと帰って行った。

──

────

「面白い子が入ったものですね……これからの生活が楽しみだ……」

 せせらぎに残る柏木は、1人笑みを零していた。



 完



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