第1話 アロマ喫茶せせらぎ
「嬢ちゃん、コイツには気をつけな。こんなヘラヘラした顔してるけどな、ヤバい裏の顔があるぜ。俺の娘も入れ込んでいて、心配でな」
刑事の萩尾は雫に注意を促した。
「雫さんを不安にさせないで下さい。ああ、萩尾さんの娘さんとは、香奈様のことなのですよ」
そう柏木は説明してくれた。
……えっ、さっきのお客さんのお父さん!?
雫は驚いて、まじまじと萩尾の顔を見てしまった。
香奈と萩尾に共通点が見つからなかったから……つまり、親子に見えなかったのだ。
「香奈は母親似だよ、嬢ちゃん」
その声で、自分がじろじろ見ていたことに気付いて、雫は謝った。
「すみません、お客様」
「いやいいって、いいって。とにかくな、この男を信用するなよ、いいな」
謝る雫に、2度も柏木について不安を煽る。
「は、はあ」
「コイツに惚れた女は数知れず。その女たちはみんな、不幸になってるからな、気をつけろよ」
念を押してくる萩尾に、呆れた顔の柏木が商品を持って来ていた。
「失礼なことを言わないで下さいますか? いい加減にして下さらないと」
「なんだ、殺すってか? そんときゃ、お前を逮捕して俺は安泰だ。例え俺が死のうが、香奈が無事でお前を刑務所に入れたら安心だ」
なにがあって柏木をここまで、言うのだろう。
迷惑な所は、香奈と親子かも知れない。
雫はこっそり心で思った。
「とにかく、刑事さんの注文のプロポリスのサプリメントですよ」
「ああ、これだこれだ」
柏木からサプリメントを受け取り、萩尾は満足そうに代金を払った。
「じゃあ気をつけろよ、嬢ちゃん」
最後まで嬢ちゃん呼びで、雫に柏木を悪い男と吹き込んで、萩尾は帰って行った。
「やれやれ、困った刑事さんだ。さあ、雫さん。午後もがんばりましょうね」
「はいっ」
萩尾があんなに柏木を悪く言うのに、疑問を持ちつつ、午後も気合いを入れて働いた雫だった。
刑事萩尾が帰った後の午後も、大変な忙しさだったが、なんとか店を回した。
そんな忙しい3日目が終わった、夜の8時半。
「すみません、今日もまた遅くなってしまいましたね」
「全然気にしないで下さい。家も近くなので」
謝る柏木に、雫は手を振って答える。
柏木が最後の会計の締めをして、雫が散らばったお香の灰や、ゴミを掃除していると、柏木はふと思いついたように、話をした。
「そういえば雫さん。昼休みに来た刑事さんのこと、気になりますか?」
柏木に話を振られて、雫は答える。
「そうですね、なんであんなことを言うのかって思いましたけど……」
不思議に思っていたことを伝えると、柏木はその涼やかな甘い声を落として、話し出す。
「……実は、刑事さんは猟奇殺人犯だった祖父と父の血を受け継いでいる私も、女性を殺めていると考えているのですよ」
……えっ?
突然の告白に雫は、掃除の手を止める。
いま、なんて?
柏木を見ると、彼は顔を俯かせて、会計の手を止めていた。
「あ、あの、猟奇殺人犯って……本当に?」
柏木に近づいて話しかけるも、彼は黙ったままで、雫は言葉を続けた。
「でもだからって、柏木さんはそんなこと、しません。こんな、優しいですし……」
そう言ってのぞき込んだ柏木の顔。雫は息を飲んだ。
柏木の顔をなんて表現すればいいのだろう。愉悦に満ちた、ぞくりとする微笑み……とでも言うのだろうか。その微笑みは、いつもの柏木とかけ離れていて、雫は思わず、彼と距離を取った。
「柏木さん……」
柏木が身体を震わせている。
怖い……。
「そんな、柏木さんまさか……」
雫が2、3歩、後退りした時。
「クククっ……」
彼の笑い声が響き渡る。
「ふふ……雫さんの顔と言ったら……」
柏木は肩を震わせて、笑い出した。こんな無邪気に笑う柏木の顔を見るのは、初めてだ。
「柏木さん……?」
その様子に雫は段々と理解していった。
「柏木さん、もしかして……からかいましたか?」
「すみません、あまりにも雫さんが怖がるもので、つい調子に乗りました」
まだ笑う柏木に雫は、はあーとため息をつく。
「もうやだー……信じちゃったじゃないですかぁ……」
一気に脱力する雫に、柏木は謝る。
「すみません、まさか信じてしまうとは思わず……怖がらせてしまいましたね」
もしかしたら、刑事の柏木を信じるなというのは、こういうとこを言ってたのかも知れない。
刑事の萩尾は雫に注意を促した。
「雫さんを不安にさせないで下さい。ああ、萩尾さんの娘さんとは、香奈様のことなのですよ」
そう柏木は説明してくれた。
……えっ、さっきのお客さんのお父さん!?
雫は驚いて、まじまじと萩尾の顔を見てしまった。
香奈と萩尾に共通点が見つからなかったから……つまり、親子に見えなかったのだ。
「香奈は母親似だよ、嬢ちゃん」
その声で、自分がじろじろ見ていたことに気付いて、雫は謝った。
「すみません、お客様」
「いやいいって、いいって。とにかくな、この男を信用するなよ、いいな」
謝る雫に、2度も柏木について不安を煽る。
「は、はあ」
「コイツに惚れた女は数知れず。その女たちはみんな、不幸になってるからな、気をつけろよ」
念を押してくる萩尾に、呆れた顔の柏木が商品を持って来ていた。
「失礼なことを言わないで下さいますか? いい加減にして下さらないと」
「なんだ、殺すってか? そんときゃ、お前を逮捕して俺は安泰だ。例え俺が死のうが、香奈が無事でお前を刑務所に入れたら安心だ」
なにがあって柏木をここまで、言うのだろう。
迷惑な所は、香奈と親子かも知れない。
雫はこっそり心で思った。
「とにかく、刑事さんの注文のプロポリスのサプリメントですよ」
「ああ、これだこれだ」
柏木からサプリメントを受け取り、萩尾は満足そうに代金を払った。
「じゃあ気をつけろよ、嬢ちゃん」
最後まで嬢ちゃん呼びで、雫に柏木を悪い男と吹き込んで、萩尾は帰って行った。
「やれやれ、困った刑事さんだ。さあ、雫さん。午後もがんばりましょうね」
「はいっ」
萩尾があんなに柏木を悪く言うのに、疑問を持ちつつ、午後も気合いを入れて働いた雫だった。
刑事萩尾が帰った後の午後も、大変な忙しさだったが、なんとか店を回した。
そんな忙しい3日目が終わった、夜の8時半。
「すみません、今日もまた遅くなってしまいましたね」
「全然気にしないで下さい。家も近くなので」
謝る柏木に、雫は手を振って答える。
柏木が最後の会計の締めをして、雫が散らばったお香の灰や、ゴミを掃除していると、柏木はふと思いついたように、話をした。
「そういえば雫さん。昼休みに来た刑事さんのこと、気になりますか?」
柏木に話を振られて、雫は答える。
「そうですね、なんであんなことを言うのかって思いましたけど……」
不思議に思っていたことを伝えると、柏木はその涼やかな甘い声を落として、話し出す。
「……実は、刑事さんは猟奇殺人犯だった祖父と父の血を受け継いでいる私も、女性を殺めていると考えているのですよ」
……えっ?
突然の告白に雫は、掃除の手を止める。
いま、なんて?
柏木を見ると、彼は顔を俯かせて、会計の手を止めていた。
「あ、あの、猟奇殺人犯って……本当に?」
柏木に近づいて話しかけるも、彼は黙ったままで、雫は言葉を続けた。
「でもだからって、柏木さんはそんなこと、しません。こんな、優しいですし……」
そう言ってのぞき込んだ柏木の顔。雫は息を飲んだ。
柏木の顔をなんて表現すればいいのだろう。愉悦に満ちた、ぞくりとする微笑み……とでも言うのだろうか。その微笑みは、いつもの柏木とかけ離れていて、雫は思わず、彼と距離を取った。
「柏木さん……」
柏木が身体を震わせている。
怖い……。
「そんな、柏木さんまさか……」
雫が2、3歩、後退りした時。
「クククっ……」
彼の笑い声が響き渡る。
「ふふ……雫さんの顔と言ったら……」
柏木は肩を震わせて、笑い出した。こんな無邪気に笑う柏木の顔を見るのは、初めてだ。
「柏木さん……?」
その様子に雫は段々と理解していった。
「柏木さん、もしかして……からかいましたか?」
「すみません、あまりにも雫さんが怖がるもので、つい調子に乗りました」
まだ笑う柏木に雫は、はあーとため息をつく。
「もうやだー……信じちゃったじゃないですかぁ……」
一気に脱力する雫に、柏木は謝る。
「すみません、まさか信じてしまうとは思わず……怖がらせてしまいましたね」
もしかしたら、刑事の柏木を信じるなというのは、こういうとこを言ってたのかも知れない。