第1話 アロマ喫茶せせらぎ
「いつもありがとうございます、香奈様」
柏木は礼を言って頭を下げ、頼まれた品物を香奈に腕を取られながら、集めていく。その間にも、香奈は柏木に話すことを止めない。
「ねえー綾女さーん。香奈を従業員に雇うって話、なんで許してくれないのー? 香奈、雇ってくれたら、綾女さんのためにがんばるのに。あんな子、雇わなくてもー」
明らかに雫を敵視しながら、香奈は言う。
「雫さんはよくやって下さっていますよ。彼女は勉強熱心で、とても助かっているのですよ」
そう言うと、柏木たちの方をちらちらと気にしていた雫に、にっこりと笑いかけてくれる。
「香奈と話しているんだから、香奈だけを見てよー」
頬を膨らませ「つまんなーい」と言う。
「香奈様は以前、接客業は苦手と話していたでしょう? 自分の不得手なことをするのは、おすすめ出来ませんよ?」
「確かにそうかもしれないね」
柏木の言葉に、というより瞳を見つめられて、納得する香奈。
「こうしてお客様として逢いに来て下されば、私は嬉しく思いますよ」
セルフレジにも関わらず、柏木自らレジを打ち、品物を紙袋に詰めていく。
「今日はどこの方とドライブに?」
「ユウ君とね、彼の別荘まで行くの。あ、別に彼氏じゃないからね、友達。香奈は綾女さんが一番だからねっ」
柏木が紙袋を大量に持ちながら、店の外で待っているであろう、香奈の友達の車まで運んで行く。
店内は柏木たちが出て行ったことで、通常の雰囲気を取り戻していた。皆、柏木と香奈のやりとりに聞き耳を立てて、聞いていたのだ。
ほとんどの客が柏木目当てなのだから、当然である。
強烈な子だったな……。
かくいう雫も、柏木に惹かれているので、気になって聞き耳を立ててしまっていた。
そうして嵐の一幕は、終わりを告げるはずだった……。
「すみませんね、雫さん。香奈様に嫌なことを言われませんでしたか?」
午前の部が終わり、喫茶店の中で雫は柏木お手製のナポリタンとアイスティーを頂いている時だった。柏木は香奈のことについて、雫に謝った。
「いえ、そんな。大丈夫ですよ、柏木さん目当てのお客さんには慣れてきましたから……」
慌てて首を振りながら答えを返す雫に、柏木はほっとしたようだった。
「言いにくいことですが、香奈様に色々と言われて辞めてしまった従業員も、中にはいるものですから……」
柏木は雫も辞めてしまうかも知れないと、内心焦っていたのかもしれない。
雫は柏木に笑顔を返して、安心させるように言う。
「大丈夫ですよ。私は辞めません。パスタ屋さんで働いていた時も、困ったお客さんは沢山いましたし、慣れてます」
雫の言葉に柏木は「よかった」と心を落ち着かせたようだった。
「せっかく入って下さった雫さんに、もし辞められでもしたら……またあの忙しい日々が始まると思うと、考えただけで倒れそうですから」
柏木は少し、疲れた笑顔を見せる。こんな顔を見せるのは、私に気を許してくれているのかな。と思えて、雫は内心嬉しかった。
「午後の部も張り切ってがんばりますから、任せて下さい」
「そう言って頂けると、助かりますよ」
柏木は嬉しそうに話した。
「そういえば柏木さんは、何かお腹に入れておかなくて大丈夫なんですか?」
何も食べずにいる柏木に、雫は疑問を投げかける。
「あまりお腹が空かない方で……朝と夜に少し食べるだけで、基本昼は食べませんね」
「そうなんですか……」
確かに、身体の線が細いし、小食っぽい感じが雰囲気からもわかる。少し、病的な美しさを感じるのも、そういった所からかも知れない。
そんな話をしていた昼休みも半ば、あと30分で店も開くといった所で、カランカランとベルが鳴った。
「お客さん? でも、閉店の札は出してますよね?」
ナポリタンを食べながら、雫は疑問を口にする。
「香奈様がいらっしゃったので、もしかしたら……」
そう言って「雫さんはそのまま食べていて下さい」と言い置いて、柏木は雑貨店の方へと歩いて行った。
聞き耳を立てていると、どうやら男性客のようだ。気になって雫は、ナポリタンとアイスティーをお腹に入れると、食器を洗ってから自分もそちらに向かった。
「では、プロポリスのサプリメントですね?」
「ああ」
雫が雑貨店の中へと足を踏み入れると、柏木とぶっきらぼうに答える男性の声がした。
「あのー、柏木さん?」
雫が声をかけると、柏木はすぐに気付いて、男性客を紹介する。
「雫さん、こちら刑事さんの萩尾さんです」
「なんだ、また若いやつ雇ったのか?」
値踏みするように、雫の上から下までを無遠慮に見る萩尾という男に、雫は挨拶をした。
「姫宮雫です。よろしくお願いします」
そんな雫に、萩尾は物騒な言葉を吐く。
柏木は礼を言って頭を下げ、頼まれた品物を香奈に腕を取られながら、集めていく。その間にも、香奈は柏木に話すことを止めない。
「ねえー綾女さーん。香奈を従業員に雇うって話、なんで許してくれないのー? 香奈、雇ってくれたら、綾女さんのためにがんばるのに。あんな子、雇わなくてもー」
明らかに雫を敵視しながら、香奈は言う。
「雫さんはよくやって下さっていますよ。彼女は勉強熱心で、とても助かっているのですよ」
そう言うと、柏木たちの方をちらちらと気にしていた雫に、にっこりと笑いかけてくれる。
「香奈と話しているんだから、香奈だけを見てよー」
頬を膨らませ「つまんなーい」と言う。
「香奈様は以前、接客業は苦手と話していたでしょう? 自分の不得手なことをするのは、おすすめ出来ませんよ?」
「確かにそうかもしれないね」
柏木の言葉に、というより瞳を見つめられて、納得する香奈。
「こうしてお客様として逢いに来て下されば、私は嬉しく思いますよ」
セルフレジにも関わらず、柏木自らレジを打ち、品物を紙袋に詰めていく。
「今日はどこの方とドライブに?」
「ユウ君とね、彼の別荘まで行くの。あ、別に彼氏じゃないからね、友達。香奈は綾女さんが一番だからねっ」
柏木が紙袋を大量に持ちながら、店の外で待っているであろう、香奈の友達の車まで運んで行く。
店内は柏木たちが出て行ったことで、通常の雰囲気を取り戻していた。皆、柏木と香奈のやりとりに聞き耳を立てて、聞いていたのだ。
ほとんどの客が柏木目当てなのだから、当然である。
強烈な子だったな……。
かくいう雫も、柏木に惹かれているので、気になって聞き耳を立ててしまっていた。
そうして嵐の一幕は、終わりを告げるはずだった……。
「すみませんね、雫さん。香奈様に嫌なことを言われませんでしたか?」
午前の部が終わり、喫茶店の中で雫は柏木お手製のナポリタンとアイスティーを頂いている時だった。柏木は香奈のことについて、雫に謝った。
「いえ、そんな。大丈夫ですよ、柏木さん目当てのお客さんには慣れてきましたから……」
慌てて首を振りながら答えを返す雫に、柏木はほっとしたようだった。
「言いにくいことですが、香奈様に色々と言われて辞めてしまった従業員も、中にはいるものですから……」
柏木は雫も辞めてしまうかも知れないと、内心焦っていたのかもしれない。
雫は柏木に笑顔を返して、安心させるように言う。
「大丈夫ですよ。私は辞めません。パスタ屋さんで働いていた時も、困ったお客さんは沢山いましたし、慣れてます」
雫の言葉に柏木は「よかった」と心を落ち着かせたようだった。
「せっかく入って下さった雫さんに、もし辞められでもしたら……またあの忙しい日々が始まると思うと、考えただけで倒れそうですから」
柏木は少し、疲れた笑顔を見せる。こんな顔を見せるのは、私に気を許してくれているのかな。と思えて、雫は内心嬉しかった。
「午後の部も張り切ってがんばりますから、任せて下さい」
「そう言って頂けると、助かりますよ」
柏木は嬉しそうに話した。
「そういえば柏木さんは、何かお腹に入れておかなくて大丈夫なんですか?」
何も食べずにいる柏木に、雫は疑問を投げかける。
「あまりお腹が空かない方で……朝と夜に少し食べるだけで、基本昼は食べませんね」
「そうなんですか……」
確かに、身体の線が細いし、小食っぽい感じが雰囲気からもわかる。少し、病的な美しさを感じるのも、そういった所からかも知れない。
そんな話をしていた昼休みも半ば、あと30分で店も開くといった所で、カランカランとベルが鳴った。
「お客さん? でも、閉店の札は出してますよね?」
ナポリタンを食べながら、雫は疑問を口にする。
「香奈様がいらっしゃったので、もしかしたら……」
そう言って「雫さんはそのまま食べていて下さい」と言い置いて、柏木は雑貨店の方へと歩いて行った。
聞き耳を立てていると、どうやら男性客のようだ。気になって雫は、ナポリタンとアイスティーをお腹に入れると、食器を洗ってから自分もそちらに向かった。
「では、プロポリスのサプリメントですね?」
「ああ」
雫が雑貨店の中へと足を踏み入れると、柏木とぶっきらぼうに答える男性の声がした。
「あのー、柏木さん?」
雫が声をかけると、柏木はすぐに気付いて、男性客を紹介する。
「雫さん、こちら刑事さんの萩尾さんです」
「なんだ、また若いやつ雇ったのか?」
値踏みするように、雫の上から下までを無遠慮に見る萩尾という男に、雫は挨拶をした。
「姫宮雫です。よろしくお願いします」
そんな雫に、萩尾は物騒な言葉を吐く。