第17話 せせらぎの1日

「今回のクレープは、冬の限定メニューです。味はチョコバナナ、イチゴのミルフィーユにホイップクリームを入れたものと、キャラメルホイップにベイクドチーズケーキを入れた3種類です」

 柏木の説明を聞きながら、3人は「いただきます」をして食べ始める。

「クレープ生地、もっちもち!」

「ミルフィーユ、うまぁー」

「チーズケーキ、美味しいっ」

 それぞれ感想を言う。

「色々研究した甲斐がありました」

 美味しそうに食べる3人に、柏木は目を細める。

「他にも色々と、味を追加してみようと思いますが、何か案はありますか?」

 3人に尋ねる柏木に、それぞれが答える。

「なんか惣菜系とかあっても、いいんじゃないっすか? ソーセージとチーズ入れたり、ツナサラダとか」

「もうちょっと、スタンダードを増やして、イチゴホイップとか、キャラメルバナナとかあってもよさそー」

「変わりダネならいまの季節、さつまいもやカボチャを使って、アイスとかホイップにしてもいいんじゃないですか?」

 柏木が意見に頷いて、メモをさらさらと書いていく。

「ありがとうございます。ではその時はまた、試食会を開きたいと思いますので、ご協力のほどをよろしくお願いします」

 柏木の言葉に頷いて食べる3人。

 そして柏木からある提案をされる。

「考えたのですが、皆さん物覚えがいいので、これから午後は仕事を交代してみましょうか?」

「え、交代っすか?」

 柏木の話に、秀人がぎょっとする。茜と雫はいいかもーと賛成している。

「ええ。これから皆さんが誰か休むとなった場合、両方の仕事を出来る方がいいと思うのですよ」

「なるほど。秀人が休んだ時は雑貨店を閉店したし、ウチら2人の内どちらか休めば、雑貨店の方閉めなきゃだもんね。まあどっちか閉めて一方をやるだろうけど、両方出来た方が安心だよね」

 柏木の言葉に茜が頷く。

「私たち3人の内、2人が長期ダウンしたり、旅行に行ったりしたら、どっちかの店、ずっと閉めなきゃいけないよね」

 茜と雫は柏木の方針に納得のようだ。

「ええー。俺、雑貨店の方の説明、覚えられっかなー」

 秀人は数百種類の品物を考えて、頭を抱える。

 喫茶店はご案内、注文取り、品物運びだけだが、雑貨店には商品説明もついてくるのだ。

「雫さんと茜さんも出来ていますし。秀人君、貴方も出来ますよ」

 そう言って柏木が秀人を励ます。

「まあ今日は姫宮が喫茶店の方行ってさ、あたしがアンタのサポートするよ」

 茜が秀人の肩を叩く。

「では、午後もよろしくお願いしますね」

 こうして午後3時からは、秀人と雫が交代して、喫茶店と雑貨店をやることになった。

「いらっしゃいませー」

 喫茶店の方は、昔ながらの雰囲気を残し、床は木製、テーブル席が4つにカウンター席は6つ。いま現在は満席だった。

 雫は以前、パスタ屋さんで働いていたので、ホールでの仕事は慣れたものだった。お客さんを案内して、注文を取り、柏木に伝える。

 ちらりと見た柏木は、4つのコンロを使いこなしており、器用に手を動かしていた。たすき掛けをした着物姿の柏木を見て、雫はドキリとする。

 和服男性、独自の色気が匂い立っているからだった。何度も見る姿なのに、未だにドキドキしてしまう。

 頭を振り、すぐに注文を取りに行く雫を、柏木がちらりと見て微笑んだことを彼女は知らない。

 雑貨店と比べて、喫茶店の方もなかなかの忙しさで、親子連れからカップルまでひっきりなしに来店する。

「本日のランチAセットと、オムライス単品にオレンジジュースです」

 柏木に伝え、またお客さんに呼ばれた。運ぶ食器は重く、雑貨店より重労働である。それでも雫はテキパキと動き、仕事をこなしていく。

 そこへ常連客の香奈が来た。

「綾女さーん」

 甘えた声を出して、まっすぐ柏木の厨房へと寄る。

「香奈様、いらっしゃいませ」

 コンロを忙しく動かしながら、柏木が香奈の相手をする。香奈は柏木と話すため、ちょうど空いたカウンター席に座った。

 香奈は柏木にベタ惚れで、週3でこの店に通っているお得意様だ。

「もうやだー。綾女さんおかしー」

 店内に香奈の笑い声が響く。なにを話しているのか気になりつつも、雫はお客さんのお皿を運んだり下げたりと、目まぐるしく働いた。

 そうして午後の7時半。

 閉店30分前になったとこで、次のお客さんが雫に声をかける。

「よう、嬢ちゃん」

「あ、刑事さん……」

 刑事の萩尾が喫茶店の方へと来たのだった。

 萩尾は以前、柏木のことを悪い男と雫に吹き込んでいた刑事だ。雫にとっては、少し苦手な常連客で、少し頭の淋しい髪に腹の出た、中年男性である。

 雫はテーブル席に萩尾を案内した。娘の香奈はとっくに帰ってしまっていた。

「嬢ちゃんも席に座れや」

 周りには2組しかお客さんはいないので、萩尾が雫に席に着くよう促す。

 有無を言わせない声なので、困りながら雫は相席する。そして萩尾は雫をじーっと見て、言葉を口にした。

「嬢ちゃん、だいぶあの男に惚れ込んでるな」

「そ、そんなこと」

 雫が柏木に惚れ込んでいることを見抜き、指摘されて雫は慌てた。


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