第17話 せせらぎの1日

『アロマ喫茶せせらぎ』。

 ここは雑貨店と喫茶店の両方を営む何でも屋さんだ。

 雑貨店にはアロマオイルを始め、お香、サプリメント、化粧品、薬にお酒と幅広い雑貨を扱っている。

 店主である柏木によれば、曾祖父の代で薬種問屋を、父の代で喫茶店を、自分の代でアロマオイルを扱い出して、いまのような店が出来上がったらしい。

 喫茶店の方もメニューが豊富で和洋折衷、パスタが出ればカツ丼も出るといった具合だった。

 店の利用客は半分は若い女性だったが、小さな子供からお年寄りまで、老若男女問わずのこの店。

 そんな人気の店にバイトで働くのが、この姫宮雫。20歳のフリーターだ。

 雫は店主の柏木に乞われてこの店に働き出した。

 雫が忙しく働いている間に、季節は12月後半となり、寒さも増してきたこの頃。

 今日も元気よく雫はせせらぎのドアを開いた。

「おはようございます」

 挨拶をしながら雫が中に入ると、すでに来ていた3人に挨拶を返された。

「姫宮、おはよう。今日もがんばろーな!」

 そう声をかけるのは、以前働いていた飲食店で一緒だった、寺岡秀人。店の大変さから、雫が声をかけた元バイトリーダー。

 黒髪のスポーツマン刈りから、いまは少し髪が伸びており、それをカチューシャで後ろに流していた。服は制服に着替えており、着物姿。すっかり着物を1人で着替えられるようになったらしい。身長があるので、様になっていた。

「ちーすっ。今日も込みそうだねー」

 大川茜が手を上げ応える。

 彼女も雫が声をかけて働くようになった以前のバイト仲間。茶髪のおだんご頭に、ピアスを沢山つけた姉御肌の女性だ。すでに制服のメイド服に着替え終わっている。

「雫さん、おはようございます」

 次に涼やかな甘い声で挨拶するのは、誰であろうこの店の店主、柏木綾女である。

 襟の揃った黒髪に、妖しさを奥に秘めた瞳、線は細いがそれなりに筋肉がついた身体に、着物を纏って微笑んでいる。

「じゃあ私、すぐに着替えて来ます!」

 みんなが揃っていることに慌てて、雫は二階に駆け上がった。





 午前11時。

『アロマ喫茶せせらぎ』オープンの時間になり、店にはお客さんがなだれ込んで来る。

「いらっしゃいませー」

 一昔前の喫茶店にあるようなドアベルが鳴り、入って来たお客さんを、
温かなオレンジ色の照明といい香りが包む。

 お客さんの接客を開始する茜と雫。以前はよくお試しをするお客さんが多かったが、いまではお気に入りを見つけた人が、目当ての商品をすぐに買っていく。

 そのためお客さんの回転率はよくなっていた。

 もちろん、新規で来るお客さんもまだいて、説明をする。

「お香はスティックタイプとコーンタイプがありますね。お好みに合わせてどうぞ」

 お香について聞いてきたお客さんに、すらすらと説明をする雫。セルフレジでは茜が、お客さんを見守っている。

「すみません、この青汁って身体にどういいのかしら?」

 そう聞くお客さんに雫は、慌てて説明書を見る。

 2ヶ月が経ち、アロマオイルやお香には詳しくなった雫だが、数百種類ある店内の商品をまだ全ては把握していない。なので、柏木からもらった説明書は、まだまだ手放せない。

「そうですね。野菜不足や食事の偏りが気になる方におすすめです。この青汁には乳酸菌や食物繊維も入っているので、身体の健康に役立ってくれると思いますよ」

「あらいいわね。買って行こうかしら」

 雫の説明に満足して、お客さんは
青汁を買ってくれた。

 まだまだがんばらないと……。

 雫は気合いを入れて接客に励んだ。

 そうして気付けば午後の2時。

 この店は、朝11時から昼2時までを午前の部、昼の3時から夜の8時までを午後の部として分けている。

 間の午後2時から3時までは、お昼休みとして店を閉めて、従業員たちのお昼タイムだ。

 いつも店主、柏木の作るまかないは美味しいので、みんな楽しみにしていた。

「今日はちょっと、試食会を開こうと思いまして……」

 柏木が、秀人、茜、雫の3人に出したのはクレープ。

「3種類、味を変えて作りました。……ちょっと多かったですかね? 食べきれますか?」

 3人に各3つずつ、クレープを渡して言う柏木。

「よゆーっすよ」

「全然イケる」

「食べられますっ」

 胃もたれなんて無縁の3人は、ニコニコと笑って受け取った。


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