第16話 お家デート
秋から冬へと変わろうとしている季節。
今日は晴れという天気予報が外れ、外は大粒の雨が窓を叩きつけるように降っていた。
「晴れたら遊園地の予定でしたが……天気予報、外れてしまいましたね」
「残念です」
柏木と一緒に色々な乗り物に乗って楽しむはずだったのに……。
落ち込む雫の頭を撫でてやりながら、柏木が微笑む。
「次の楽しみに取っておきましょう」
柏木がそのまま雫を抱きしめる。雫も柏木の背中に腕を回し、「はい」と素直に頷く。
彼の匂いに包まれながら雫は、お家デートは人目を気にせずくっついたり、キスをしたり出来るので、それはそれでいいかと思い直す。
雫は柏木と付き合うようになり、土曜出勤の日はそのままお泊まりをして、日曜日を過ごすことも多くなっていた。
今日はそんなお泊まりデートをした翌日の日曜日。お布団でイチャつきながら、のんびりとお昼に起きた。
「ちょっと時間がかかりますが、待っていて下さい」
柏木が喫茶店の厨房に立つ姿を見ながら、雫は幸せに浸る。
お客さんも誰もいない2人だけの空間。いつもはあんなに賑やかな店内も、今日は雨で余計静かだ。店内に響くのは、柏木さんの料理をする音だけ。
もし柏木さんと同棲したら、毎日こんな風に彼お手製の朝食を取って、1日が始まるのだろうか……。
そしたらどんなに幸せだろう。朝一番、柏木さんの涼やかで甘い声に起こされて、一緒に朝食を食べる。
仕事の時間まで2人、まったりと話をしながら、幸せな空気が流れていく……。
そんな妄想をしていると、柏木が雫の前に、料理を出した。
「お待たせしました。キノコの和風パスタです」
パスタメニューは雫の大好きなメニューのひとつだ。
雫は「いただきます」をして口に頬張った。そんな雫を見て、柏木が呟く。
「私の可愛いハムスターさんは、美味しそうに食べてくれますね」
柏木が愛しそうに雫を見つめ、微笑んでいる。こんな優しい瞳に見つめられるのも、恋人の特権のようで、恥ずかしくもあり嬉しくもある。
「とっても美味しいですっ!」
と雫が言えば、
「作り甲斐がありますよ」
柏木は幸せそうに笑った。
そうして柏木は自分の分もお皿に乗せ、雫の隣りの席に座り、食べ始める。柏木が食べ始めると、雫はついつい見惚れてしまう。
この世に顔が綺麗な人は沢山いるが、所作まで美しい人はなかなかいない。柏木は食べ方すらも、絵になる男性である。
雫がついうっとりと見惚れていると、柏木が苦笑する。
「……そんなに見つめられては、恥ずかしいですね」
「はっ! ごめんなさいっ!」
雫は慌てて視線を外す。
「それに……そんなに見つめられたら、キスをして欲しいのかと、思ってしまいます」
欲しがっている顔に見られていたらしい。雫は顔を赤くする。
でも……。
「欲しい、です」
雫は柏木の瞳を見つめて答える。恥ずかしがってばかりいられない。雫は自分の気持ちに素直になることで、柏木が喜んでくれることを知っていた。
柏木は少し驚いた後、その瞳を細め、口元の笑みを深くする。
「では、いただきます……」
こうして甘々なお家デートが、始まりを告げたのだった。
────
────────
その後、お布団の中で柏木に美味しく頂かれた後、雫は彼と色々な話をした。
この間借りた本の話では、人間の振りをして人間界に暮らす、妖怪のお殿様が繰り広げる、ラブコメディーについて盛り上がった。
以前借りた『3つの扉』は全15巻、すでに読み終えていた。柏木も面白かった場面を言い、雫も頷く。
他にも店で困ったことや、喫茶店の新メニューの提案など、柏木に聞いて欲しい話は尽きない。
しかしそうしている間にも外は暗くなり、夜を迎えていた。外で振っていた大粒の雨も、すっかり大人しくなっている。
「じゃあそろそろ、帰りますね……」
雫が言えば柏木がじっと見つめてくる。
「もう、帰ってしまわれるのですか?」
柏木の言葉に雫も淋しそうに返す。
「明日は仕事ですから」
本当はこのままいたい……柏木さんの声を聞いていたい……。
雫の想いが伝わったのか、柏木が声をかける。
「雫さん……」
雫の頬に手を添えて、柏木が名前を呼ぶ。自然と目を閉じれば、軽いキスをされた。
「私だって、離れたくないです……本当は。でも仕事だから……」
正直な気持ちを口にすれば、柏木は微笑んで言う。
「もう一泊していけばいい」
柏木の誘いに、雫は躊躇する。
もう一泊なんてしたら、明日仕事が出来るんだろうか……と。
「ね? いいでしょう雫さん?」
柏木の声と妖艶な笑みに雫は結局、彼の望み通りになる。本格的なキスをされそうになり、雫は慌てて柏木に言う。
「お手柔らかにお願いしますね」
完
今日は晴れという天気予報が外れ、外は大粒の雨が窓を叩きつけるように降っていた。
「晴れたら遊園地の予定でしたが……天気予報、外れてしまいましたね」
「残念です」
柏木と一緒に色々な乗り物に乗って楽しむはずだったのに……。
落ち込む雫の頭を撫でてやりながら、柏木が微笑む。
「次の楽しみに取っておきましょう」
柏木がそのまま雫を抱きしめる。雫も柏木の背中に腕を回し、「はい」と素直に頷く。
彼の匂いに包まれながら雫は、お家デートは人目を気にせずくっついたり、キスをしたり出来るので、それはそれでいいかと思い直す。
雫は柏木と付き合うようになり、土曜出勤の日はそのままお泊まりをして、日曜日を過ごすことも多くなっていた。
今日はそんなお泊まりデートをした翌日の日曜日。お布団でイチャつきながら、のんびりとお昼に起きた。
「ちょっと時間がかかりますが、待っていて下さい」
柏木が喫茶店の厨房に立つ姿を見ながら、雫は幸せに浸る。
お客さんも誰もいない2人だけの空間。いつもはあんなに賑やかな店内も、今日は雨で余計静かだ。店内に響くのは、柏木さんの料理をする音だけ。
もし柏木さんと同棲したら、毎日こんな風に彼お手製の朝食を取って、1日が始まるのだろうか……。
そしたらどんなに幸せだろう。朝一番、柏木さんの涼やかで甘い声に起こされて、一緒に朝食を食べる。
仕事の時間まで2人、まったりと話をしながら、幸せな空気が流れていく……。
そんな妄想をしていると、柏木が雫の前に、料理を出した。
「お待たせしました。キノコの和風パスタです」
パスタメニューは雫の大好きなメニューのひとつだ。
雫は「いただきます」をして口に頬張った。そんな雫を見て、柏木が呟く。
「私の可愛いハムスターさんは、美味しそうに食べてくれますね」
柏木が愛しそうに雫を見つめ、微笑んでいる。こんな優しい瞳に見つめられるのも、恋人の特権のようで、恥ずかしくもあり嬉しくもある。
「とっても美味しいですっ!」
と雫が言えば、
「作り甲斐がありますよ」
柏木は幸せそうに笑った。
そうして柏木は自分の分もお皿に乗せ、雫の隣りの席に座り、食べ始める。柏木が食べ始めると、雫はついつい見惚れてしまう。
この世に顔が綺麗な人は沢山いるが、所作まで美しい人はなかなかいない。柏木は食べ方すらも、絵になる男性である。
雫がついうっとりと見惚れていると、柏木が苦笑する。
「……そんなに見つめられては、恥ずかしいですね」
「はっ! ごめんなさいっ!」
雫は慌てて視線を外す。
「それに……そんなに見つめられたら、キスをして欲しいのかと、思ってしまいます」
欲しがっている顔に見られていたらしい。雫は顔を赤くする。
でも……。
「欲しい、です」
雫は柏木の瞳を見つめて答える。恥ずかしがってばかりいられない。雫は自分の気持ちに素直になることで、柏木が喜んでくれることを知っていた。
柏木は少し驚いた後、その瞳を細め、口元の笑みを深くする。
「では、いただきます……」
こうして甘々なお家デートが、始まりを告げたのだった。
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────────
その後、お布団の中で柏木に美味しく頂かれた後、雫は彼と色々な話をした。
この間借りた本の話では、人間の振りをして人間界に暮らす、妖怪のお殿様が繰り広げる、ラブコメディーについて盛り上がった。
以前借りた『3つの扉』は全15巻、すでに読み終えていた。柏木も面白かった場面を言い、雫も頷く。
他にも店で困ったことや、喫茶店の新メニューの提案など、柏木に聞いて欲しい話は尽きない。
しかしそうしている間にも外は暗くなり、夜を迎えていた。外で振っていた大粒の雨も、すっかり大人しくなっている。
「じゃあそろそろ、帰りますね……」
雫が言えば柏木がじっと見つめてくる。
「もう、帰ってしまわれるのですか?」
柏木の言葉に雫も淋しそうに返す。
「明日は仕事ですから」
本当はこのままいたい……柏木さんの声を聞いていたい……。
雫の想いが伝わったのか、柏木が声をかける。
「雫さん……」
雫の頬に手を添えて、柏木が名前を呼ぶ。自然と目を閉じれば、軽いキスをされた。
「私だって、離れたくないです……本当は。でも仕事だから……」
正直な気持ちを口にすれば、柏木は微笑んで言う。
「もう一泊していけばいい」
柏木の誘いに、雫は躊躇する。
もう一泊なんてしたら、明日仕事が出来るんだろうか……と。
「ね? いいでしょう雫さん?」
柏木の声と妖艶な笑みに雫は結局、彼の望み通りになる。本格的なキスをされそうになり、雫は慌てて柏木に言う。
「お手柔らかにお願いしますね」
完