第15話 雑誌の取材

「なにかお探しでしょうか?」

 女性は声をかけてきた雫の姿を見て、聞き返した。

「あの、店長さんはいらっしゃいますか?」

「あ、柏木ですか? 隣りの喫茶店の方にいますが……」

 また柏木目当てのお客さんだろうか。と思いつつ返答する。

「ちょっと呼んできて頂いても、よろしいですか? 私、こういう者です」

 混み合った店内で、女性はカバンから名刺を差し出す。

「ときめく彼方、編集部……若月奏……?」

 なんで雑誌の編集の人がここに?

 雫が疑問に思っていると、若月は話した。

「実は私『ときめく彼方』で、この店を特集したいと思っていまして……店長さんと話がしたいのですが……」

 せせらぎの店が雑誌に……!!

 雫は驚きながらも「少々お待ち下さい」と声をかけて、慌てて柏木を呼びに行く。

 喫茶店の方へと行くと、柏木が忙しく鍋を動かしていた。

「柏木さん、忙しい所ごめんなさい。実は、雑誌の編集さんが来ていて……」

 そう告げると柏木はすぐに「店に来ましたか……」珍しく困った顔を浮かべ、雫に礼を言い喫茶店の方に来てもらうよう、彼女にお願いする。雫は慌てて若月を喫茶店に案内した。

「あっ、柏木さん。おはようございますっ!」

 柏木を見て若月は挨拶をする。

「あのお話はお断りしたはずですよ」

 厨房で鍋を動かしながら、柏木は困ったように若月に話す。

「はい、メールでは断られたので、実際に店へと足を運んだ次第ですっ!」

 若月は柏木の言葉にもめげず、笑って話す。

「私はこの店を、もっと世に知らしめたいと思っていますので、取材をお受けして頂くまで、来る所存です! あ、これつまらない物ですが……」

 持っていた紙袋を柏木に渡す。

 周りのお客さんも話を聞いていたようで、

「え~、この店雑誌に載るの~!」

「絶対、その雑誌買うー!」

 などと、キャーキャー話している。

 話を進められては困ると思い柏木が、若月に言い渡す。

「ご覧のように店は賑わっていますので、十分です。それに取材をお受けする時間がありません」

 柏木が断りの返事をすると、周りのお客さんが柏木に言い募る。

「えー、柏木さん受けるべきだよー」

「この店の特集記事、読みたいー」

「お店を知られるのは嫌だけど、柏木さんの写真付きなら、記事は読みたいなぁー」

 店が混乱しそうになったので、柏木が若月に申し出る。

「わかりました。いまは開店時で忙しいので、昼の2時半にまたいらして下さいますか?」

「ありがとうございますっ! では、出直して参りますっ!」

 若月は手を振って、もうすでに取材が決まったかのように、足取り軽く店を出て行った。

「さあ、お客さんをお待たせしています。雫さん、よろしくお願いします」

 一緒になってやりとりを聞いていた雫に声がけをして、柏木も料理の仕上げをしていた。

 雑誌の取材……せせらぎの店が記事になる……!!

 雫はわくわくしながら、仕事へと戻った。

 忙しい午前の部も終わりを告げた午後2時。

 柏木の作った天丼と味噌汁を頂きながら、2時半から来る雑誌編集者の若月について、話をしていた。

「というわけで、ネットショップの方のメールに取材の申し込みが何度もありまして。その度にお断りをしていたのですが、とうとう店にまで来られまして……」

 柏木はため息をつきながら、疲れた顔をする。いつもは微笑んでいるのに、今日はそんな顔ばかりしていた。

 そんな柏木に茜が口を開く。

「確かに、取材を受けるとなると、店閉めなきゃいけないし、取材したらお客さん増えるし、断らざるを得ないですよね……」

 うんうんと頷く茜。

 タレのよく染みこんだエビ天を口にしながら、秀人が話す。

「別に店閉めなくても、土・日休みなんだし、そん時に来てもらえばいいんじゃね?」

「土曜日はネットショップの方の整理がありますので……」

「じゃあ日曜日でOKじゃん?」

 そこまで言った時に、

「バカだね、アンタ」

 茜の突っ込みが入る。

「日曜日は姫宮と店長のラブラブタイムじゃん。週1しかイチャつけないのに、時間割くのもったいないし」

 茜の言葉に雫が顔を真っ赤にする。付き合っていることを伝えたが、こうして話題に上ると恥ずかしい。

「そうですねぇ……私としてもそれは、避けたいので」

 柏木はやっとにっこりと微笑んで言ってくれた。

「と言うか店長! 姫宮と付き合ったなら隠さず、教えてくれたらいいじゃんっ!」

 秀人の言葉に柏木が答える。

「隠しているつもりはなかったのですよ? 私は、雫さんとイチャついているつもりでしたし」

 ねえ、雫さん?

 柏木に妖艶な笑みで尋ねられ、ますます雫は顔を赤く染め上げる。

「熱いね、ヒューヒュー♪」

「ラブラブだねー」

 秀人と茜がちゃちゃを入れる。2人は一通り雫をからかい、それから茜が柏木に言う。


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