第15話 雑誌の取材

 11月。

 過ごしやすい涼しい日が続いていたが、今日は打って変わって冷たい雨となった。

 そんな日曜日。
 雫は家で友人の桐絵と女子会を開いていた。

「雫も友情より男を取るように、なったのね……」

 桐絵が持ち込んだお菓子に、せせらぎの店で買ったアップルティーを出して話し始めた時、彼女は開口一番、雫に言った。

「ふあっ……なっ」

 慌てる雫は誤魔化そうとしたが、その慌て振りが肯定しているのも同然であった。

「わかるわよ……日曜日、こうも逢うのを断られていたら……」

 桐絵は、お嬢様のようなフリルのついたドレス姿で、膝に鍔の広い羽根つき帽子を抱えて、ため息をつく。

 雫は柏木との初めての夜以降、日曜日は彼と一緒に過ごすのを優先し、桐絵と逢うのは久しぶりだったのだ。

「あの、その……」

 言いよどむ雫に桐絵は言い当てる。

「柏木さん、でしょ? わたしが忠告した時、すでに手遅れだったものね……」

 桐絵はアップルティーを飲み、喉を潤わせる。

「うん……」

 柏木のことを考えると雫は、自然と顔が赤くなってしまう。そんな雫を桐絵が見つめて呟く。

「その様子だと大事にされているみたいね……あの男が約束を守っているみたいで、安心したわ……」

 ポテチを口にする桐絵に、雫がいまの言葉に食らいつく。

「や、約束ってなに!?……あ、もしかしてこの間、柏木さんと2人で話してたこと?」

 桐絵が初めてせせらぎに来店した時、柏木と2人なにかを話していたのだ。その時は2人とも、教えてくれなかったのだが……。

「あの時言ったのよ。『雫はわたしの大事な友達。手を出すなら大切にして下さい。万が一、傷つけるようなことをしたら……呪い殺しますよ?』そう言っておいたの……」

 なんてことを言ったの、この子────!!

 雫は頭を抱えて青くなる。

「そしたら彼、なんて言ったと思う?『雫さんは私にとっても大事な人です。大切にしますから、安心なさって下さい』ですって……」

 柏木さん……。

 やっとあの時の2人の会話が聞くことが出来た。雫はずっと頭の片隅にあったもやもやが解消され、ほっとした。

「付き合ったばかりで、逢いたい気持ちはわかるけど……もう少し友情も大切にして欲しいわ……淋しく感じる……」

「あっ、ごめんね桐絵」

 前職の時も桐絵は雫を心配し、いつも傍で守ってくれていた。そのおかげで、悪い男に引っかからずに済んでいた。なのにその友人を雫は最近メールするだけで済まし、大切にしていなかったかも知れない。

「ごめんね。柏木さんのことで私、頭がいっぱいになってたのかもしれない」

「それに付き合ったことを内緒にするなんて……水臭いわ。これからはわたしに、秘密はなしよ……」

「うん、ごめんね。ありがとう」

 柏木さんのファンの人たちにバレることを恐れるあまり、神経質になっていたのかも知れない。

 明日、仕事に行ったら、大川さんたちにも言おう……。

 雫は桐絵と柏木とのことを話ながら、そう考え直した。

────

────────

 翌日は気持ちのいい秋晴れとなり、1週間のスタートを切るには心地よい月曜日となった。

「あっ、そうだったんだー! おめでとー!」

「マジか、店長と! いつの間にやらめでたいことで!」

 仕事が始まる前に茜と秀人に報告すると、2人とも祝福してくれた。

「なんだよ、なんだよー。もっと早く言ってくれたら、気ィ使ったのにー」

「姫宮は秘密主義なんだな。まあ店長も言ってこなかったし。……あ~、俺らに話すと、客にバレると考えてのことかー」

「え~っ。そんなちゃんと秘密にするってー」

 茜と秀人に水臭いと言われつつも、秘密にしていた理由をわかってくれたようだ。

「これからはなるべく、2人きりにしてあげるからねっ」

「任せておきなさいっ!」

 2人がニコニコと笑って、雫を安心させる。

 それからお喋りを止めて、仕事の準備へと取りかかる。雫も慌てて後を追った。



 午前11時。

 今日も沢山のお客さんを、『アロマ喫茶せせらぎ』は出迎える。ドアベルが店内に響き渡り、温かなオレンジ色の照明と、気分をリラックスさせる香りが包む。

「いらっしゃいませー」

 いつものように茜と2人でお客さんに丁寧に対応する。

「雫ちゃん、おはよう」

「あ、笹山さん。おはようございます!」

 常連客にも顔と名前を覚えられて「いつものやつを」という声に、元気よく返事をして品物を渡す。

 そんな中、1人の女性が店内を見回しながら入って来た。

なにかお探しかな……?

 雫は新規のお客さんと思い、近づいて尋ねた。



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