第8話 柏木からのお誘い

「へえー、店長児童書なんて読むんだー。意外ー」

「イメージ的に、専門書とか純文学とか読んでそーだよなー」

 茜と秀人の言葉に、柏木は微笑む。

「興味を持ったものはなんでも読みますよ。専門書でも純文学でも、ミステリーや青春ものに恋愛からベストセラーまで」

 柏木は読むジャンルが幅広いようだ。3人はパンケーキを食べながら、話をする。そうして柏木お手製のパンケーキで、午後も乗り切った。



「ふわあー。やっと終わったー」

「疲れたねー」

 茜と2人、「お疲れ様」と言い合って、喫茶店の方へと向かう。店主、柏木からのお疲れ様の一杯が待っているからだ。秀人は先にカウンター席に座り、もうホットコーヒーを飲んでいた。

「お疲れ様です」

 柏木からあったかいコーヒーを出され、ふうふうしながら頂く。

「今日は香奈様来なかったから、静かだったねー」

「そうそ、香奈様いないと、平和だなー」

 茜と秀人は、常連客の香奈を柏木と同じく、香奈様と呼ぶ。あの強烈なキャラがそうさせているようだ。

「じゃあ着替えてくるかー」

 秀人がコーヒーをぐいっと飲み干し、それに倣い茜も一気飲みする。

「先、着替えてんねー」

 茜と秀人が二階に行き、雫は柏木と2人きりになる。

「そうだ、雫さん。これを」

 柏木がカウンター越しに雫に本を差し出す。

「次の巻ですよ」

「わあー、ありがとうございます」

『3つの扉』の第2巻を受け取り、雫は喜ぶ。

 ぱらぱらと本をめくると「あれ?」何やらカードが挟まっている。

 雫がカードを手に取ると、文字が書かれていた。


『今度の日曜日、デートしませんか?』

 柏木の流れるような美しい字が、雫を誘う。

「あの、これ」

 尋ねる雫に、

「だめ……ですか?」

 柏木が妖艶な微笑みで尋ね返してくる。

「そんな……」

 だめな訳がない。雫は頬を染めながら、微笑んで柏木に返事をする。

「よろしくお願いします」



 完

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