第6話 ハムスターさん

 小さな毛玉ボールが、もひゅもひゅとレタスを食べている。

「可愛いなー」

 雫の手の上で、一生懸命食べている毛玉ボールこと、ハムスターさんは幸せそうだ。

「クス……またハムスターさんを撫でているのですか?」

 部屋の襖に寄りかかり、柏木は雫とハムスターを見て、微笑んだ。雫は、ハムスターを柏木に紹介してもらってからというもの、よく触らせてもらっていた。

「うーん……やっぱり変……」

「? なにが……ですか?」

 雫の言葉に、首を傾げる柏木。

「やっぱりどう考えても変ですよ、柏木さん」

「?」

「ハムスターさんなんて……!!」

「……は、はあ……?」

「もっと可愛い名前をつけてあげるべきですっ!」

 雫は前々から気にしていたハムスターの名前について、話すことにした。そうして意気込んで話した雫に、柏木は苦笑した。

「可愛い名前……と言われましても……ハムスターという品種なので、ハムスターさんでよろしいのではないですか?」

「そんなの、まんまじゃないですかっ! こんなにも可愛いのに……」

 雫のことを、きょとんと見上げるハムスターさん。

 少し唇を突き出し、ハムスターさんを撫でる雫を見て、

「では、雫さんがよい名前をつけてあげて下さいませんか?」

 と柏木は提案する。

「えっ、い、いいんですかっ!」

「ええ」

 途端に雫は、嬉しそうな声を出した。

「ええー、あ、あの実は前々から考えていた名前があるんですっ!」

「ほう、そうでしたか。して、どのような名前なのです?」

 そう聞く柏木に雫は、嬉しそうに答えた。




毛皮背負照けがわせおてるですっ!!」

 自信満々に、言い放った。

 一瞬、思考停止した柏木がなんとか、

「けがわ……せおてる……」

 そう繰り返す。

「はいっ!!」

 柏木と打って変わって、雫は誇らしげに頷く。

「ハムスターって、毛皮をしょってるじゃないですか。だから、背負ってる、で背負照。ちゃんと苗字もついてるし、立派な名前だと思うんですっ!」

 きらきらと瞳を輝かせて話す雫に、柏木は、

「ええ……いいと思います……」

 ただ、そう言うしか出来なかった。

 いい名前をつけたと思っている彼女にまさか、

「ハムスターさんより変ですよ!」

 などと言えず……。

 本当に面白い子ですよ、貴女は。

 そう心で微笑む柏木の想いなど気付かずに、雫は手の中の小さな命に笑いかける。

「よかったねー背負照ー」

 雫はハムスターさん改め、毛皮背負照を撫でていた。


 完

1/1ページ
スキ